疑念や不安もあるが、利便性が上回る
信用の可視化によって得られるメリットは大きいが、インターネットによって個人の信用、道徳が測られることについて気味の悪さを感じる人は多いのではないか。まるでSF小説が描く「ディストピア」そのままではないかとの感想を抱く方も多いだろう。中国でも芝麻信用がデータを過剰収集しているのではないか、スコアをあげる裏技があるのではないか、など不安の声は少なくない。
実際、今年に入り、「芝麻信用のスコアアップ支援」をうたう業者が登場している。中国メディアの報道によると、芝麻信用に提供する情報を書き換えるなどの手法がとられているようだ。中には超高級車のランボルギーニの購入履歴を偽装することでスコアアップを図った事例まであった。
奇異の目を向けられることが多いが、芝麻信用は決して特異なサービスではないと鄧副総経理は否定する。アメリカではFICOスコアなどのクレジットスコアが活用されている。クレジットカードの利用履歴によって信用を評価する仕組みだが、クレジットカードを使っていない人は信用評価を持てないという課題があった。そこで携帯電話関連の履歴や政府のデータベースも組み合わせた「FICO スコアXD」が開発された。クレジットカード社会のアメリカとは違い、モバイルインターネットやネットショッピング関連の履歴が重視されている点が異なるが、発想は共通している。中国だけに存在しているサービスではないのだ。
中国では従来の信用評価といえば、個々の金融機関が融資に際して実施するものだが、農民や経済後発地域の住民、若者などは銀行やクレジットカードの履歴がなく、信用評価を持てずにいた。芝麻信用はこうした課題を解決する画期的なサービスだと鄧副総経理。またデータ収集にあたっては法律を遵守し、ユーザーの同意を得て必要なデータのみを収集していることも強調している。
またスコア偽装について、鄧副総経理は「スコアは非常に大量の要素をAI(人工知能)が処理して算出しています。いくつかの要素を操作してもスコアを上げることは困難ですし、無理にやればAIが異常を感知し、スコアは逆に下がるだけです」と否定した。
スマートフォンからの情報収集、個人情報データベースの統合などプライバシーや情報安全に深くかかわる分野だけに、そう簡単に疑念が払拭されることはないだろう。しかしながら、中国社会では懸念よりも、信頼の可視化による利便性を評価するムードを感じる。芝麻信用社の普及によって、便利さを感じる局面が増えていることが大きい。
個人以上に信用のありがたさを実感できるのが企業、特に中小企業である。アントフィナンシャル社は信用情報の活用によって、画期的な中小企業向けフィンテック・サービスを提供している。次回、ご紹介したい。
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