2024年12月10日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年9月30日

 沖縄県尖閣諸島沖での海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件をきっかけにした、日中の「駆け引き」は、日を追うごとに情勢が変化している。昨晩、今朝のニュースでは、「中国側の軟化」が伝えられる。

 日本政府の対応の是非はもはや論じるまでもないので、今回の事件が、日中両国にもたらした、あるいは今後もたらすであろう経済的な影響を具体的に考えてみたい。

経済カードをもっているのはどっちだ?

 2,175,200人と869,400人。これが何を表す数字か、即座に分かる人はほとんどいないものと思われる。前者が、今年3月から7月までに中国を訪れた日本人の数、後者は、同時期、日本を訪れた中国人の数である。

 中国人観光客の存在感が喧伝される昨今だけに、「意外」と思われるかもしれないが、今日でも、訪日中国人よりも、中国を訪問した日本人のほうが圧倒的に多いのである。もちろんこれにはビジネス渡航者も含まれるから、純粋に「観光客数」の比較とはいえないが、仮に観光客だけを抽出したとしても、ほぼ同じ結果と考えていい。

 これに加えて昨今、喧伝されるのが、中国人観光客が日本で「爆買い」する様子だ。

 あくまで推定だが、中国人旅行者の1回の旅行での平均消費額は1人当たり1.17万元(1320ドル)といわれ、欧米人観光客の約2倍とされている。これを参考に、少なめに見積もって、日本人の中国旅行での消費額を中国人が日本で消費する半分としても(実際にはホテルへの支払い等を勘案するともう少し高額と見られる)、やはり日本人が中国に落とす金額のほうがまだまだ多いと見て間違いない。

 とはいえ、もちろん、デパートなどの高額の小売業や一部地方の観光地、商店街にとっては、長引く日本の不況の中で中国人観光客が「救世主」であることは否めない。したがって、訪日中国人旅行客のキャンセルが相次ぐ状況が長引けば、これらの業者にマイナスがのしかかることも同時に否めない。

中国漁船を500隻も拿捕する韓国

 しかし、全体として見た場合、われわれがメディアの報道から受け取っている印象ほどには、「中国優位」の状況ではないことをあらためて認識すべきであろう。

 日本の観光産業全体の中での訪日中国人旅行のシェアは未だ限定的で、日中間の人の行き来が一定期間途絶えた場合、マイナスの影響は実は中国側のほうが大きいのだ。この種の「思い違い」は、他の分野でも散見されるので、この際、ひとつひとつ冷静に検証してみるのも悪くないのでは、という気がしている。

 一方、韓国の事例をも頭に留めておきたい。2004年以来、韓国は、同じく自国の領海内で操業する中国「漁船」を約500隻も拿捕、乗組員をのべ3万人も逮捕してきた。が、中国との間で特段の国際問題にもならず、最近は日本以上に中国人観光客の呼び込みに熱心だ。

 つまり、日本だけが「観光客」をカード化されたということである。

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