足立倫行のプレミアムエッセイ

2017年10月28日

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唯一赤色の識別能力を取り戻したグループ

 植物にとって種子選びの最良のパートナーは鳥類だった。ただし、種子の成熟前に食べられてしまうと植物は困る。そこで、未熟な間は果実の色を緑の葉に埋もれる緑色とし、味も苦くした。緑色の間は「食べないで」、赤くなれば「今食べて」というサイン。

 ところが、哺乳類の大多数はこの赤色を認識することができなかった。

 なぜならば、恐竜時代の哺乳類の先祖は臆病な夜行性動物だったからだ。夜の暗闇の中でもっとも見えにくい色は赤色。このため、哺乳類は赤色の識別能力を失ったのだ。

 しかし、哺乳類の中で、後年に至って唯一赤色の識別能力を取り戻したグループがいた。それが、サルの仲間の一部、つまり私たち人類の祖先である。

 赤色を認識できたから果実を食べ始めたのか、果実を餌にするため認識能力が発達したのか、どちらかは不明だが、熟した果実を食べるサル類は、大きな種子を含む果実を周囲に吐き出した。かくして我が祖先は被子植物の果実と共生関係を築くようになったのだ。

 従って稲垣さんは著書の中で記す。

 「ハンバーガーショップや牛丼屋、ラーメン屋など飲食店が赤系統の色をしていたり、私たちが赤ちょうちんに惹きつけられるのは、『赤色』が植物の果実のサインの色だからである」

 小春日和の日差しを浴び、恐竜時代にまで遡りながら、真っ赤な熟柿を頬張りつつ赤い果物と人間の関わりに思いを馳せるのは、渋柿豊作の今年の楽しみの一つだ。

 〈日あたりや熟柿の如き心地あり〉漱石

 もっとも、私が熟柿好きだからといって、別に渋抜きの渋柿を嫌いなわけではない。

 実は鳥取県は、渋抜きの渋柿の中で「絶妙の食感」を誇る西条柿の代表的産地なのだ。

 西条柿は、昭和30年代にドライアイスを使った脱渋法が導入されてから大量生産体制が整ったそうだから、子供時代にはなかったが今や全国ブランドである。

 ずんぐりとしたロケット型で、色は黄色がかった橙色。全然赤くないのだが、果肉が過度に柔らかく、味は比類のない上品な甘さ!

 近いうちに取り寄せた箱が届くので、熟柿の後は間を置かず西条柿である。

 カキ漬けの老いの日々がゆっくり過ぎて行く。

  
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