2024年11月22日(金)

古都を感じる 奈良コレクション

2010年11月2日

 大仏さまが完成した時には、お祝いにたくさんの歌と舞が奉納された。

 大歌・大御舞・久米舞・楯伏舞・女漢躍歌・跳子名・唐古楽・唐散楽・林邑楽・高麗楽・唐中楽・唐女舞・高麗女楽。日本のみならず、中国・朝鮮・ベトナムのものも含まれている。当時、日本にあったすべての歌と舞であろう。

 だから、そのあともずっと、いつも音楽を聴いていられるように、大仏さまの近くに音声菩薩像が置かれたのだろう。

 でも今(2010年)、大仏殿の前に八角燈籠はない。12月まで東京で展示されているからである。

 よし、それなら、代わって、音楽を奉納しよう。

 4人の音声菩薩のうち、笙を吹く菩薩は、長い年月のうちにいなくなってしまい、新造された像しかない。

 10月15日は聖武天皇が大仏を造ろうと決意表明した日。その日の夜に、大仏さまの前で笙を吹かせていただいた。素人の瞬間的な演奏ではあったけれど、正倉院に伝わった奈良時代の笙(の復元模造)だったから、大仏さまに久しぶりに奈良時代の笙の音をお聞かせできたかもしれない。

 この夜、大仏さまに音楽を奉納したのは、平原綾香、Salyu、THE BOOM、林英哲、川井郁子という豪華メンバーで、平原綾香さんは《ジュピター》を歌った。

 仏教の大切な考え方に「縁起」がある。AがあるからBがある。AがなければBはない。このように何事にも必ず原因があるという考え方で、私自身の言葉で表現すると「どんなことにもわけがある」となるが、《ジュピター》には「意味のないことなど起こりはしない」とあって、これこそまさに縁起の思想。「つながっている」「ひとりじゃない」と言い換えることもできるが、その通りの歌詞もある。

 そんな私の解説のあとに平原綾香さんは歌い出したが、歌い終わると大仏さまに深々とおじぎをした。その時、大仏さまが微笑んだように見えたのは、ただ私の目の錯覚であったのか。

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