目を皿のようにして見られていたHDR展示
今回のIFAで人を集めていたのは、「有機ELテレビ・8K液晶テレビ」「HDR」。HDRとはHigh Dynamic Range(ハイダイナミックレンジ)のことで、従来のSDR(スタンダードダイナミックレンジ)に比べてより広い明るさの幅(ダイナミックレンジ)を表現できる表示技術。SDRでは日陰が黒つぶれしたり日向が白飛びしたりするが、HDR映像では明るい部分と暗い部分どちらの階調も犠牲にすることなく、より自然でリアルな描写が可能になる。
ただ日本ではマニアの話題の中心の『8K』の周りのユーザーは、ちょっと少ない感じ。集客力があったのは「有機ELテレビ」と「HDR」。どちらも「4Kテレビ」の技術だ。要するに、次、と言っても1〜2年後先と思うが、次に買うだろうテレビの下見のイメージなのだ。自分に影響がくるためか、鵜の目、鷹の目で、目が皿のようだった。
しかも各ブースとも「HDR」は今までの「SDR」との比較をしていた。どのブースでも人だかり。特にドイツ、欧州ブランド(Metz、フィリップス等)への視線が熱いと感じた。
正直、HDRの画は目を皿のようにしてみなくても、SDRより格段に上。誰が見ても分かるレベル。見ているユーザーも、唸ったり、息が変わったりと、興奮しているのが感じられる。自分の生活を直撃するだけに熱くなっている。
見物人が立ち止まらないサムスンブース
さて、日本だと液晶テレビの雄はシャープだが、世界的にシェアを持っているのは韓国のサムスン。そのサムスンのテレビコーナーは、通常、スマホに続く混んだコーナーとなる。スマホとテレビの差は、スマホはいじることができるので、見るだけのテレビよりちょっと長居をしてしまうためなので、人気は余り変わらないと思って欲しい。
しかし、今年のサムスンのテレビコーナーは、人が少ない。例年から言うと圧倒的に少ない。初めは不思議だったが、しばらくすると理由が見えて来た。展示が、非常に分かり難いのだ。
今年サムスンがデモしたのは、「QLED」と「HDR10+」。QLEDとは、量子ドット(Quantum Dot)を採用したLEDバックライト液晶テレビのこと。難しい話を全てすっ飛ばすと、赤、緑、青という光の三原色の輝度を上げた高性能なLEDをバックライトに採用したというもの。黒の階調がセクシーな有機ELに対し、輝度の明るい色で対抗しようとしたと言ってもいい。人がいないのでじっくり確認させてもらったが、感動するほどではない。理論的なモノづくりに走ると、時々あることだ。私はサムスンが理論に溺れたように感じられた。
もう一つの展示「HDR10+」は「HDR」規格のハイスペック規格。ここまで単に「HDR」と呼んできたが、HDRを実現する技術は3つある。「HDR10」「Dolby Vision」「HLG」だ。その中でメジャーなのは「HDR10」。
さて、細かな話は置いとくとして、「HDR10+」は「HDR10」の上位規格なる。それなら「HDR」が「明るい部分と暗い部分どちらの階調も犠牲にすることなく、より自然でリアルな描写を可能にする技術」であることに対し、「HDR10+」というのはどこをよりよくしたのだろうか?
差は最大輝度の決め方。HDR10は、1コンテンツで、1つ最大輝度を決める。これに対し、HDR10+はシーン毎に最大輝度が設定できるのだ。例えば、映画には明るいシーン、暗いシーンと様々ある。全シーンの最大輝度を同じにするのがHDR10。シーン毎に変えてやるのがHDR10+、ということだ。
理論的に言うと、HDR10+は正しい。しかし、少なくともサムスンのデモを見る限り、必要か、否かは、微妙だ。映像一コマを上げて差があるでしょというのは分かるのだが、動かして見たときよくわからないというのはよくある話だし、そのシーンが特に印象的でなければ記憶に残らない。またこれが一般化するとなると、再生映像にもHDR10+に準じさせなければならないし、再生機であるテレビにもHDR10+対応が必要となる。当然、価格も高くなる。最終的には、効果とコストで決まるが、対価に見合うかどうかは、未知数だ。
今回のIFAでのテレビの話題は、やはり「有機ELテレビ」もしくは「8K液晶テレビ」という新しいテレビの提案と、次のメインになる「4K 液晶テレビ」での「HDR」の凄さだ。観客も見入った。しかし、理想のテレビに対してはまだ道半ばで有り、サムスンは「4K液晶」の最高技術をアピールをしたとも言える。しかし、ユーザーは反応はそんなに熱くはなかった。
これは何を意味しているのだろうか?