政府とゲリラの和平合意が国民投票で否決されたものの、大統領がノーベル平和賞をもらったこともあり、合意文書をどうにか締結させた南米コロンビア。その締結一周年を前にした2017年11月、今度はゲリラの頭目が18年の大統領選への立候補を表明し、「調子に乗るな」「いい加減にしろ」と保守勢力から非難の大合唱が起きている。
コロンビアは独立を挟んだ過去200年あまり、地主と小作、富裕層と貧困層との戦乱が繰り返され、16年に和平合意に至ったコロンビア革命軍(FARC)ら左翼ゲリラと政府軍は最後の半世紀の暴力を担ったにすぎない。200年におよぶ内乱の終結という「大きな物語」が前に進んだのは確かだが、この国は依然、いくつもの否定的な「小さな物語」を抱えている。
コロンビア革命軍はその名を「コロンビア革命代替勢力」(FARC)に改め、合意文書で約束された政党として議会に10議席を確保されている。スペイン語のArmada(武装)という言葉をAlternativa(代替)に変え、なぜか略称のFARCをそのまま残している。面白いのはR、つまりRevolucionaria(革命的)という言葉を温存しているところだ。武器なしでも、今も革命を、国家転覆を、富裕層打倒を目指しているという意味だ。
ゲリラ時代の議長で現党首、ロドリゴ・ロンドーニョ氏、通称ティモチェンコは17年11月、大統領選に出馬すると言い出し、右派の怒りを買い、2代前と1代前の大統領が共闘し始め、2人で大統領候補を選ぶと言い出した。2人はサントス現大統領による和平合意に一貫して反対してきた古株で、仮にこの共闘勢力が大統領選で勝てば、和平合意をご破算にしかねない。
特に2代前のウリベ元大統領は米軍を呼び込み大規模なゲリラ掃討作戦を展開した人物。下手をしたら再びFARCを野に放つといった最悪のシナリオもささやかれている。
00年代初頭には1万8000を数えたFARCの戦闘員は9000人にまで減ったが、17年9月に武装解除し、社会復帰のための滞在施設に入ったのは8000人。その半数がすぐに姿を消し、約1000人が今も武装したまま、かつての支配地域でコカイン栽培の縄張り争いなどに当たっている。
議会では、和平合意は甘すぎるという意見を受け、内戦中の戦争犯罪を裁くよう新たな法廷を設立する法案が通過した。犯罪を告白すれば罪に問われない「真実委員会」のような形になるようだが、18年の大統領選で右派が勝てば、これもどうなるかはわからない。
このように否定的な「小さな物語」をあげればキリがない。だが、 例えば1990年代の南アフリカではアパルトヘイト崩壊後も騒乱が延々と続いたが、真実委員会などを経て、数年で政治的暴力は収まった。コロンビアも政争が盛り上がり、通常の犯罪が増えたとしても、内戦終結という「大きな物語」が覆ることはないだろう。
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