2024年11月22日(金)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年11月19日

 しかも、来年のAPEC主催国は米国であり、1年後の開催時期までに米国はTPP参加を正式に表明したいとしている。しかし、日本が準備不足のまま参加交渉をしても、時間がかかり来年のAPEC会合に間に合わなくなると嫌がられる可能性がある。

最大のメリットはグローバル化

 日本のTPP参加にあたっては、農業をいかに改革するかにばかり焦点が当たっているが、TPPの影響は農業だけに及ぶのではない。参加すれば経済のグローバル化が進んで日本経済が活性化するし、企業がグローバルな経営目線を身につけることも大いに期待できる。

 最近、日本社会が内向きになっているとの指摘は多い。米国などに留学する日本人学生が減っていることなど、海外に出て行くことに消極的な人々が増えていることの指摘であり、いくつもの調査結果が日本人の内向き志向を裏づけている。

 TPPへの参加は、このような国民の内向き志向を大きく変化させる可能性につながる。それは、日本企業および日本人に海外に行く機会をより多く提供するだけではない。TPP参加国の企業が対日進出しやすくなることもある。さらに、サービスや人の移動などに絡んで参加国共通の規制などが取り入れられることで、日本社会の枠組みがよりグローバル化することになる。

 企業経営について言えば、完全に成熟化した国内市場で生き残るだけではダイナミックなビジネス展開や差別化を軸とした市場競争は活発にならない。しかし、グローバルな経営目線が浸透していけば、業務の選択と集中、企業の買収や部門別の売却買収などが今よりも活発となろう。

 国際的に低位な日本企業の利益率がグローバル目線で向上すれば、株価上昇にもつながるし、国内投資家も呼び寄せることとなる。そして、個人を主体とする国内株式投資家層が厚くなれば、今度は企業に対して適切なリターンを求める意識も強まり、日本企業自身もよりコーポレートガバナンスや積極的な経営戦略をとることが促されるという好循環となる可能性も十分にある。

 さらに、日本の経済や社会がグローバル化することで得られるメリットは人や企業の内外交流拡大に限られない。国内企業の活性化を阻む多くのビジネス抑制的な国内慣行が是正される契機になる。

TPPを経済共同体への第一歩とせよ

 日本がTPPに参加することは、EU型の経済共同体への参加にもつながりうる大きな第一歩となる。もちろん、TPPがEU型の経済共同体に発展することなど現時点では全く想定できないし、米国がそのように考えている節もない。また、日本がEUのような経済共同体に加わるというのは、いささか突飛な考えに思えるかもしれない。

 しかし、今回の金融危機後の世界経済の動きの中で見えているのは、健全な経済運営を求める規律が日米よりもEUで強く働いているという事実だ。このことは、大きな財政赤字を抱え、経済構造改革もなかなか進まない日本にとっては大いに考慮に値する。

 もちろん、参加国が同じ規律を受け入れざるを得ない経済共同体に入ることは大変な制約になる。しかし、それが日本のようなバランスの取れた経済運営ができなくなりつつある国にとっては大きな強制力となり、プラスとなる。

 菅総理は、TPPは日本にとって「平成の開国」だと表現している。「平成の開国」で活力回復を図らなければならないのは農業だけではない。農業以外の産業分野に開国効果が及ぶことが肝要な点だ。

 まさに、既得権や海外から非関税障壁と言われる慣行を打破し、日本の経済社会全体がグローバル化して活性化することを展望すれば、事実上米国との自由貿易圏を形成するTPPへの参加は経済・社会全体の大きな改革につながる契機となる。

 TPP参加は、日本経済の一層のグローバル化推進と同義だ。その後の経済共同体への歩みも意識しつつ国内の経済体質を強くする千載一遇のチャンスであり、日本として精力的に推進するに値する素晴らしい成長戦略といえる。


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