2024年11月22日(金)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2017年12月18日

徹底的な現場取材がロジックを生む

 「最初に自分の目で現場を眺め、それから携帯で多くの風景を撮影します。どこの道が傾いているのか、どこにどんな裏道があるのか、ある地点からある地点まで歩いてどのぐらいかかるのか、どんなビルがあるのか、ビルの特徴はどうなのか、道は湿っているか乾いているか、騒音は大きいかどうかなどを、確かめます。こういう作業によって作品のリアリティが増すのです。すべてのことにはロジックがあります。だから推理を展開する前に、それを支える事実がある。そこがしっかりしていればこまかく細部を思考しなくてもいい。作家としては、そこで楽をするとも言えます。現実を描けばロジックができます、なぜなら現実がロジックそのものだからです」

 陳浩基さんによれば、この現場取材までは、プロットの細部までは詳しく作っていなかったという。

 「現場取材を経て、被害者と経営者の関係や店同士の関係などの細部が浮かび上がってきて、写真を整理し、想像を加えて、物語が出来上がりました」

 陳浩基さんは、自らの執筆のスピードはかなり早い方だと自認している。ただ、執筆の前には、構想や取材などの準備に相当の時間をかける。

 その特徴が最も出たのは、本書の第6編だという。

「未解決事件」の真相究明を試みた

 「第6編は、書いていても気持ち良く、爽快極まりなかったです。資料の収集にはかなり力を入れましたが、書くときはものすごくスムーズで、推敲もほとんど必要がなく、初校がほとんど最終稿になりました」

 ちなみに第6編は1967年の香港左派暴動のなかで、子供が爆殺された事件に基づいて書かれている。まだ犯人がわからない未解決であり、左派が香港で力を失うきっかけにもなった事件だ。

 陳浩基さん自身も「第6編はいささか『小説家が実際の未解決案に挑んで真相究明を試みた』というテイストがあります、香港の読者たちは大変この点に注目したようですが、海外の読者はこの事件そのものを知らないので、もしかすると香港の読者とはちょっと反応が違うかもしれませんね」


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