2024年12月10日(火)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2017年8月29日

中国政府の介入で「一国二制度」の形骸化の危機が叫ばれている香港でいま、民主化運動に関わってきた人々への政治的弾圧が激しさを増している。雨傘運動でリーダー的役割を果たした若者3名に対し、香港の高等法院はこのほど第一審の判決を大きく変更し、重い実刑判決を下した。「政治犯を作り出している」との批判が香港内外で高まるなか、中国政府の意向を受けたとみられる香港政府主導のもと、さらに多くの民主化運動のリーダーが入獄や破産に追い込まれつつある。民主化運動の代表的存在で、香港社会でその長髪から「長毛」の愛称で親しまれているベテラン政治家、野党・社会民主連線(社民連)幹部の梁国雄氏に話を聞いた。梁国雄氏も昨年の立法会選挙で当選したものの、議員就任の宣誓方法をめぐって「宣誓文の読み方が適切ではない」などの理由で香港政府から訴えられ、先日、議員資格を喪失したばかりだ。(取材・執筆:野嶋剛)

 

「雨傘運動」の若者たちに実刑を下した香港司法の実態

――「香港で政治犯の出現」と世界から注目された雨傘運動の3名の判決の前に、社民連の幹部も含めた13名についても、第一審の軽い判決を再審され、5年間の被選挙権を失う3ヶ月以上の実刑判決に改めた司法判断が出ています。

香港民主活動家・梁国雄氏
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梁:彼らは政治犯であり、良心犯でもあります。彼らは普通選挙を香港で実現すべきだという信念で運動に参加し、その結果、被選挙権を奪われる重い罪を言い渡されました。これは過去の香港の判例ではほとんどなかったことです。第一審では重罪に問うべきではないという考えから、社会奉仕や執行猶予といった軽い判決が出ていたのですが、今回の判決で、司法界は明らかに「政治的清算」を目指しています。つまり、雨傘運動の力を削ぎ、民主化運動を行う抵抗勢力に対し、司法の力を使って代償を払わせています。

 第一審の若い裁判官らは雨傘運動にも理解があり、香港社会の考えも知っているので、まっとうな判決を下していたのです。しかし、香港政府や高等法院の裁判官は、雨傘運動の抵抗の意義を認めようとしません。香港司法界の幹部は習近平とも面会しており、中国共産党幹部とも盛んに交流しているのです。

――あなたもすでに政府から訴えられる裁判を何件か抱えていますね。彼らのように入獄となる危険はないのですか。

梁:私の案件はどれもそれほど重くなく、懲役も3ヶ月以下のものばかりです。ただ、6月末の習近平訪港に抗議して行った広場占拠の件で裁判が始まれば、今後はどうなるかわかりません。

 中国共産党は香港返還以降、民主化運動を封じるうえで、司法を使った「政治的清算」が最も有効な方法だと考えているのは確かです。習近平はこれを「三権配合」と述べています。行政、立法、司法が協力すべきだと。これに対し、香港の司法界も抗議しませんでした。「三権配合」とは、司法界が行政部門に協力し、行政の決定を判決で裏書するものです。「公検法(公安・検察・司法)」という言い方が中国にはありますが、公安=警察が一番上にあり、警察が捕まえたら検察も裁判所も協力するという中国のやり方そのものです。香港はいまだ国際的な金融の中心地ですが、警察国家になってしまえば、その地位を失いかねないと危惧しています。

――香港の司法はすでに信頼できない、ということでしょうか。

梁:過去には、ここまであからさまに司法の協力を求めるケースはありませんでした。日本で首相が裁判官に「こうしろ」と命令したら翌日には辞任ですよね。香港では、そんな事態が実際に起きていると理解してください。


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