香港の行政長官選挙の結果が26日、明らかになった。中国政府の後押しを受けたと目される前香港政府政務官(ナンバー2)の林鄭月娥(キャリー・ラム)氏が、大差で対抗馬の前香港政府財政官(ナンバー2)の曽俊華(ジョン・ツァン)氏らを破り、1997年の香港返還後、4代目の香港トップの行政長官に7月1日から就任する。女性としては初で、5年の任期となる。
しかしながら、近年の懸案である「中港矛盾(中国と香港の対立)」は、この選挙によって改善の方向に向かうどころか、さらに深まってしまった恐れがある。とりわけ要注意なのは、中国政府が香港情勢について深い理解や洞察を欠いているのではないかという疑念が拭えないことだ。今回の選挙に至る候補者選びでも中国の「失着」が目立ち、「自由」「法治」「自治」などを保障した一国二制度の堅持を求める香港社会との亀裂を埋めることはできなかった。
現在起きている香港問題の肝要は、香港社会において、中国政府が一国二制度をしっかり維持する気があるのかどうか、「信心(自信)」が著しく低下している、という点に尽きる。
もともとは、香港返還後、大量に流入した中国マネーによる土地高騰や不動産の買い占め、中国人観光客のマナーへの不満などから生まれた反中感情という下地の上に、選挙制度において中国政府が「一人一票」の普通選挙の実施を認めず、かえって香港への締め付けを強めることで、広範な市民の反発が巻き起こり、2014年の雨傘運動の爆発を招いた形になった。
2016年の立法会選挙でも、従来の対抗勢力である民主派だけでなく、中国と香港は違う主張をして民主派よりさらに中国に批判的な「本土派」の躍進を止めらなかった。今回の選挙は、そうした香港情勢の悪化に歯止めをかけるチャンスと見られていた。
必ずしも、出足は悪くなかった。香港の現職行政長官で、香港人にきわめて嫌われている梁振英氏は、もともと再任に強い意欲を示していた。それは、民衆に不人気でも、間接選挙の香港では、中国政府の支持さえ得ていれば、親中派が多数を占める選挙委員から得票ができる計算があったからだ。
そして、梁氏の再任に対して、香港政策を担当する中国国務院香港マカオ弁公室や、その香港の所在地から「西環」というあだ名で呼ばれる「中央政府駐香港連絡弁公室」なども、反対を唱えず、支持する構えを取っているとみられていた。ところが昨年12月9日、梁氏は突然、娘の病気を理由に不出馬を表明する。その記者会見で映し出された梁氏の表情は極めて暗く、明らかに予想外の事態に対する落胆が見て取れた。