確かに、かつてアルバニアが「国府追放、北京招請」のため、いわゆるアルバニア決議を担いで国連で一役買いました。中国マネーの威力でしょう。しかし、中国マネーの威力は今や桁外れに大きくなっている筈です。「16+1」は2011年に温家宝首相(当時)がブタペストで提案して発足したものです。EU加盟国及びバルカンの非加盟国のまとまりを欠く集団を一堂に集めるのですから、中国マネーの威力は大したものです。幾つかの国の首脳にとっては、中国は(習近平国家主席がいうところの)「独立を保全しつつ開発を加速したい諸国に新たなオプション」を提示する存在なのかも知れません。欧州の中でこれら諸国が中国の投資の主要目標になることはあり得ませんが、アルバニアの例もあることですからEUとその主要国には中国の影響力拡大を相殺する努力が必要のように思われます。
(註)「16+1」参加国は、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、クロアチア、ルーマニア、ブルガリア(以上EU加盟国)とアルバニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、マケドニア、モンテネグロ、セルビア(以上EU非加盟国)です。
EUにおける中国の直接投資の累計は、まだ米国や日本のそれに及びませんが、近年急速に伸び、2016年の中国の直接投資は350億ユーロで前年比77%増を記録しました。この記事は、中国の企業買収について、安全保障の観点からの懸念が、フランス、ドイツ、イタリアで高まっていることを説明しています。
これら3国の提案を受けて、去る9月、ユンケル欧州委員会委員長は本年の施政方針演説において、EUは常にその戦略的利益を守らなければならないとして、投資の審査に係わるEUの枠組みを設けることを提案しました。もし、外国の国営企業が欧州の港、エネルギーのインフラ、あるいは防衛に係わるハイテク企業を買収することを望む場合、買収は透明性が保たれ、吟味され、議論された上でのみ可能となる、と彼は述べました。この提案は、外国投資の審査権限をEUに集中する趣旨ではなく、安全保障と公共の秩序の観点からの加盟国の審査に共通の基準を設け、その際、外国の投資家が国営企業であるか、あるいは国の財政支援を得ているか否かを考慮に入れるというもののようです。
この程度の提案でも、加盟国の思惑は一致しないようです。ギリシャが中国の意を迎える政治的行動をしているのは、ギリシャが債務危機からの脱却のためにピレウス港を民営化し、その持ち分の過半を中国の国営企業であるCOSCO(中国遠洋海運集団)に売却することになったことと無関係ではないでしょう。そういう事態を観察すれば、懸念は高まっていい筈ですが、中国マネーの魅力はそれ程大きいということのようです。
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