2024年11月23日(土)

ネルソン・コラム From ワシントンD.C.

2010年12月8日

 実際、CIA(米中央情報局)やホワイトハウスに勤務し、米国務省の外交官を務めた経験を持つ元米政府高官のリチャード・ブッシュ氏は先日ソウルで講演し、米韓両国は国連安全保障理事会での協議と、延坪島砲撃に関する北朝鮮非難声明を要請すべきだと訴えた。

 ブッシュ氏は、事件を安保理に持ち込むことで、「中国は公の場で従属国である北朝鮮を擁護せざるを得なくなる」と主張した。彼が明白にした目的は、安保理での協議を求めれば、中国政府は初めて、「非行に走った思春期の子供」を見捨てるか、全世界を前に北朝鮮政府の行動を擁護する責任を受け入れるしかなくなる、というものだった。

 この作戦は果たしてうまくいくだろうか? 長年、アジア地域の安全保障上の最大の脅威は北朝鮮の体制崩壊だと考えてきた中国政府は間違っているという米国の主張を、中国はついに受け入れざるを得なくなるのか?

 米政府は、今の北朝鮮、今のように統治されている北朝鮮、今のように行動する北朝鮮こそが、まさに今、中国の根本的な国益に対する戦略上の脅威となっており、今後もそうであり続けると主張している。

 韓国や日本にとっての北朝鮮も同じだ。将来いつか起きるかもしれない仮説上の政治的、社会的崩壊ではなく、今現在、脅威となっているのである。

 最近ウィキリークスが暴露した米国の外交公電からは、中国の考え方が米国の主張に大まかに沿った形で変化している兆しがうかがえる。だが、事実を綿密に調べると、匿名で語っている中国の外交官や学者は指導部を代弁しているわけではないことが分かる。

 暴露された話はせいぜい、中国による北朝鮮支援の代償と恩恵について、そして、北朝鮮を抑制し、さらには同国を平和的に地域に統合するうえで中国に何ができるかについて、中国の指導部内で議論が高まっていることを反映しているに過ぎない。

 今のところ、米国の諜報および外交筋が同意する読み筋は、以下のようなものだ。北朝鮮への支持を表明する中国の一貫したパターンは、やはり一貫した経済的、金銭的支援によって裏づけられており、ここには「米国やその同盟国が制裁を通じて何をしようと、北朝鮮の体制を崩壊に追い込むようなことは許さない」という金正日政権へのメッセージが込められている――。

 そして、ここに問題がある。もしかしたら、米国は間違っているかもしれないのだ。

中国の影響力の限界 
北朝鮮の深刻な変化を見逃すな

 中国の政府高官や中国を訪れている学者は長年、世界は北朝鮮の指導者の思考や行動に対する中国政府の影響力を過大評価していると警告してきた。25~30年前はそうだったかもしれないが、今は明らかにそうではないという。

 彼らは、北朝鮮のミサイル実験や核実験、韓国海軍哨戒艦「天安」に対する残忍な攻撃や、韓国の島と軍事基地に対する直近の非道な砲撃を引き合いに出す。

 中国人の間には、シリアに売却され、イスラエルに破壊された原子力発電所や、イランに売却されたとされるミサイルなど、立証されている北朝鮮による核拡散防止条約違反は、中国の影響力の限界をはっきり示していると主張する向きもある。

 さて、今月のまとめに入ろう。

 中国は今も、従属国である北朝鮮の「責任を取る」ことを拒んでいる。北朝鮮は今後も、韓国に対して時折非道な行為を仕掛け、兵器やミサイルの実験を行い、核拡散を図っていく可能性が高い。韓国と米国は、再度「事件」があれば、武力をもって対抗措置を取る決意だと主張している。

そして、日本はと言えば、危機時にどうなるか予想がつかない形で日米韓3カ国を結びつける通商上、協定上の利害を抱えている。

 中国と北朝鮮問題の責任を負うホワイトハウスの友人に会うと、彼らがこの10カ月間で10歳も老け、2年近く前のオバマ大統領の就任式以来、一晩ゆっくり眠ったことがないように見えるのも無理はない。


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