2024年12月26日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年12月8日

 「開校以来、最も暴力的な事件」が起きたのは、22日午後10時20分ごろ。学生食堂が値上げを宣言したことに腹を立てた一部の生徒が直談判をしようと食堂に集まり出し、やがて口論に発展、食堂の椅子やテーブルを壊し始めた。同40分には地元幹部や公安当局が現場に駆け付け、事態を収束させたが、すでに食堂の窓ガラスや一部設備が壊された後だった。それは、この度の物価の急騰が始まって以来、中国国内で報じられた初の抗議騒乱であるが、インフレ率がこのまま上昇していけば、抗議行動はもはや一中学校に止まるようなものではなくなる。いずれ全国範囲での大規模な騒乱に広がっていく可能性が大きい。

物価上昇はなぜ起こるのか?

 今年に入りインフレの亢進がこれほど深刻になっているのは一体なぜなのか。それに対し、中国国内では最近、ある政府高官兼経済学者の口から、実に興味深い重要発言があった。

 11月2日付「中国経済週刊」によると、中国人民銀行(中央銀行)の元副総裁で、現在全国人民代表大会(全人代、国会に相当)財政経済委員会の呉暁霊副主任は近日、「過去30年間、われわれはマネーサプライ(貨幣の供給)を急増させることで、経済の急速な発展を推し進めてきた。その結果として今のインフレがある」と発言した。同氏の話によると、「過去の一定期間、中央銀行にはマネーサプライの過剰な供給という問題がある。特に09年は、金融危機の対応政策として(中央銀行は)超金融緩和政策を採ったことは大きい」という。

 実は呉暁霊副主任のこの発言においてこそ、中国が今直面している深刻なインフレ問題の根本的原因と、中国の今までの経済成長の「秘訣」の両方が一挙に明かされたのである。

 そう、中国はこれまで30年間、まさに「マネーサプライの過剰な供給」、すなわち紙幣の濫発によって「経済の急速な発展」を維持してきたのであり、経済成長を持続するためにこのような無理を積み重ねてきたことのツケは、まさに昨今のインフレ問題として表面化してきているわけである。

 中国が今までどれほどの「マネーサプライの過剰な供給」を行ってきたのか。まず次の一連の統計数字を見てみよう。中国人民銀行が11月2日に発表したマネーサプライ統計によると、今年9月末時点の広義マネーサプライ(M2)残高は69兆6400億元(約843兆円)で、前年同月比19%増となった。一方、先月21日発表された中国の1~9月の名目国内総生産(GDP)は26兆8600億元(約325兆円)。同期のマネーサプライ対GDP比(マーシャルのK)は約260%に拡大した。

 一般的に先進国では、マーシャルのKはせいぜい50%から70%の間を推移しており、またバブル経済ピーク時の日本のマーシャルのKは120%だったと言われている。それに対して、現在の中国のそれは260%にまで達しているから、貨幣の過剰供給による「流動過剰」がいかに深刻なものであるかよく分かる。

 さらに別の数字を見てみよう。中国政府の統計によると、09年末時点で33兆5400億元に達した中国GDP規模は1978年の3645億2000万元の92倍だ。しかし、広義マネーサプライ(M2)は78年の859億4500万元から09年の60兆6000億元と、31年間で約705倍に膨らんだ。

簡単には収まらない中国のインフレ

 つまりこの31年間で、経済の規模が92倍に増大したのに対して、供給された貨幣、すなわち札の量は、経済規模の増大の約8倍に膨らんできた、ということである。


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