2024年12月26日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年12月8日

 今までの中国の経済成長はまさに「札の濫発」によって作り出された水増しの経済成長であることがこの数字の対比を見れば一目瞭然であるが、凄まじいインフレがそこから生じてくることも当然の結果であろう。上述の数字からすれば、09年の広義のマネーサプライ(M2)は当年度のGDP規模の33兆5400億元よりも約33兆元も多くなっているが、GDP規模とはほぼ同額となっているこの33兆元分の「過剰貨幣」は、まったく実体経済の裏付けのない「空虚のマネー」であることは明らかである。「空虚のマネー」がそれほど氾濫していると、当然、貨幣の価値が大幅に落ちてしまうことになるのだが、それがまさに、インフレ、すなわち物価の上昇によって実現されるのである。

 そういう意味では、今年から始まった中国のインフレは、そう簡単に収まりそうもない。過去30年のツケが回ってきたわけだから、時間をかけてそれを払わなければならない。インフレはこれからも、かなり長期間にわたって中国全土を席巻することになるであろう。

中国の高度経済成長は終焉を迎える

 こうした中で、いかにしてインフレの亢進に対処するのかは中国政府にとっての緊急課題となりつつある。中国人民銀行(中央銀行)は今年10月に2年10カ月ぶりとなる利上げを実施したのに続いて、11月には預金準備率を過去最高水準に引き上げたのもまさにインフレ退治策の一環であったが、12月3日、中国共産党は政治局会議を開き、「適度に緩和的」だった金融政策を「穏健的(慎重)」に変更すると決めたことは注目すべきであろう。

 中国指導部はそれで、金融引き締め策へ転じるそぶりを見せはじめているが、彼らには依然として、思い切った金融引き締めへ舵を切る覚悟が出来ていない。というのも、前回の私のコラムでも指摘しているように、思い切った金融引き締め策を採ってしまうと、その副作用としての不動産バブルの崩壊と経済の急落が避けられないからである。インフレの亢進を恐れているのと同じ程度に、中国政府は経済の急落も非常に危惧しているのである。

 こうした中で、中国発展改革委員会マクロ経済学会の王建事務局長は中国新聞社のインタビューを受け、「中国国民はさらなる物価上昇に耐える必要がある」と発言して、政府の経済運営の無策のツケを国民に押し付けようとしているが、インフレの亢進=物価の上昇がいずれかの時点で国民の忍耐を超えたところまでエスカレートしてしまえば、その時こそ、中国の経済と社会は未曾有の深刻な局面に直面することとなろう。少なくともその結果として、今まで31年、貨幣の過剰供給によって支えられてきた中国の高度経済成長が終焉を迎えることは確実であろう。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜


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