2024年11月22日(金)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年12月29日

浜野保樹教授「亀山さんの仕事を見て、日本の映画も産業として成り立つんだって思い出ださせてもらった」

 それが、自宅でテレビ見ながらだと、亭主相手にとか、言えるわけですよ。僕の女房なんか、「えーっ、これセットで作ったの?」とか「ロアビルこうだったよねえ」とか、のべつ幕なしに言いながら見てる。それを見て僕は「なるほどそういうことか、この手の映画って」と思うわけです。

 つまりテレビで見やすい映画という、ひとつのジャンルを発見したんですね。

 逆にテレビから映画への流れができたら、三谷さんの成功も生まれる。

 三谷幸喜さんの出世作と言ったらなんといってもウチの「古畑任三郎」シリーズですけど、“古畑任三郎の三谷幸喜がメガホンをとる映画「THE 有頂天ホテル」(2006年)”って宣伝を仕かけると、面白そうって思ってもらえる。そんな感じですよね。

映画哲学より収益が、論より証拠

浜野 私の学生に映画監督協会の会員名簿を調べさせたんです。監督業だけで食えてる人、何人いるか調べてみろって。

 でわかったことは、多くの映画監督が大学とか専門学校の先生なんですね。専業として成り立つ業じゃないんですよ、もはや。映画監督は副業化している。

 そこにあるのは諦めなんです。貧乏でいいや。監督なんてどうせ食えないし、っていう。
これは芸術家たちと近い。だって画家や音楽家で食えている人、どのくらいいますか。大概、学校の先生やっていたりするわけで。

 映画が産業として成り立つには、当てて儲けて、投資して才能見つけてという好循環に誰かがもっていかないとダメなわけ。その誰かが、亀山さんであり、あるいは日テレの奥田誠治さんであると、私は確信してるわけ。

 日テレとジブリの成功や、亀山さんがやった成功を見て、映画製作は産業だったのだと、思い出させてもらった。

亀山千広氏は、幾度となく、映画がきちんと収益を上げることのできる産業であることを証明してきた。
『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』
写真提供:ポニーキャニオン

亀山 うーん。

 実を言うと、これだけ映画をつくってて、僕に対して作品の中身についての取材って、皆無ですね。

 聞いてくれりゃ僕だって薀蓄総動員して、「いやあ、よく気づいてくれました。あの場面はほら、ヒッチコックの映画のね、あそこに対するオマージュになってて」みたいなこと、ひとつやふたつは言えるんですよ。でも誰も聞いてくれない。

 そのかわりと言っちゃなんですけど、「踊る」が映画界の人たちから無視だけはされたくないと思ったから、『キネ旬(キネマ旬報)』の編集とかけあって、「ページくれません? ともかくいまの映画界の状況に、僕、罵詈雑言浴びせるから」、って(笑)。

 「監督の哲学? そんなもん、カネかけて見に来る酔狂なのが、いるんすかねえ」とか。
さんざん挑発しようと思ったんです。「テレビ人が何言いやがる」でもいいから、お手並み拝見でもいいから、1人でも多くの人に見に来てほしいと思いましたから。

 だって、収益出さなきゃいけない組織人でしょ。ありとあらゆる工夫で、そこは売っていかなくちゃ。

 当たると173億。けど次は70億になる世界。だけど組織人としての実績主義で言ったら173億が基準になって、「せめておまえ、その7掛けくらいの数字もってこい。120ぐらい言えよ、と。70なんていったら50も少ないじゃないか」って言われちゃう。会社って、そんなところですからね。

 一部門で50億未達なんて、とてつもない数字ですしねえ。

 そんな数字を背負わされて仕事しているから、ますますビジネスを語ってしまう。ハイハイわたしは映画人ではありません、ビジネスマンでございます、みたいな。


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