2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年2月16日

 この演説は、米国が孤立主義をとることを否定する一方、トランプがこれまでも常に言ってきた「公正で相互主義的な貿易」を求めている。

 報道等ではreciprocalは「互恵的」と訳されることが多いが、「相互主義的」の方が正確であるので、ここではそのように訳している。相手から得られた利益・不利益に、その分だけ報いるということである。例えば、トランプは昨年5月のG7で「他国が関税を下げるならば米国もそうするし、30%にするならばそうする」と言っている。相互の利益を図ることとは異なる。

 トランプが言う公正な貿易とは、外国による輸入制限、補助金、ダンピング、その他非関税障壁に対し、米国の通商法に基づき、不公正を認定し報復措置をとるということである。こうした手法は、トランプが導入したわけではないが、一方的措置であり、保護主義的である。上記演説で「我々の貿易法を実施し、貿易システムの完全性を取り戻す」と明言している点は注目すべきであろう。

 もちろん、不公正は排除されるべきだが、公正性が保護主義の口実になり得るので、自由貿易と公正貿易の概念の間には緊張関係もある。公正か不公正かは、当事者ではなく最終的には第三者が認めるのが理にかなっており、WTOの紛争解決メカニズム等が存在する。今、米国に求められていることは、WTOを中核とする自由貿易システムの守護者としての役割である。上記演説は、トランプ政権の通商政策がそれに応える方向に向かっていることを示唆しているとは言い難い。

 知的財産権の大規模な窃取、補助金、国家主導の経済計画などに対する批判は、中国式の権威主義的重商主義への明確な反対である。それはその通りであるが、報復措置に頼れば通商戦争を引き起こすことに繋がる。トランプ政権の今後の通商政策の展開をよく見極める必要がある。

 米国のTPPへの復帰検討の示唆は、トランプが1月25日にCNBCとのインタビューで発言したものである。既に広く報じられている通り、「TPPがもっと良い協定になるのならば参加するだろう。TPPは酷い協定だった」などと述べた。しかし、米国を除くTPP加盟11か国は、3月にもTPP11の協定を締結することで大筋合意しており、米国が直ちに復帰を検討することは現実的ではない。日本政府が、米国の復帰を歓迎するがTPP11の変更は考えない、との立場を表明しているのは、当然のことである。

 トランプが唐突にTPPへの復帰検討を言い出したのは、一つには、世界の経済人のトップが集まるダボス会議での演説を前に、聴衆の注目を集めるべく、インパクトのある発言をしたのではないかと推測される。つまり、世界のトップの経済人たちに対し米国の孤立主義への懸念を払しょくするための、アピールの材料に使われただけなのではないだろうか。トランプは、上記CNBCとのインタビューで「問題が起きた時にすぐに破棄できるので、多国間協定より2国間協定の方を好む」とも言っているから、多国間協定に真剣に目を向け始めたようには思われない。

  
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