8月17日付の英エコノミスト誌は、ペンス副大統領の南米歴訪に関して、同行記者の取材として、トランプ政権の中南米外交が破綻しつつあるという解説記事を掲載しています。要旨は以下の通りです。
ペンス副大統領のコロンビア、アルゼンチン、チリ及びパナマ歴訪に同行して受けた最も強烈な印象は、その影響の小ささであった。トランプ大統領に忠実なペンスは、かつてのブッシュ・ジュニアのように米州FTAといった大構想ではなく、もっとスケールの小さな、或いは、相手側を困惑させるようなテーマ、すなわち、北朝鮮制裁、ベネズエラへの更なる圧力、そして特定の米国製品の市場アクセスの改善といった当面の懸案に集中した。受け入れ国側は、米国側の要求が意味のないもので、自らの優先順位にも合致しない場合には、それを無視することを恐れはしなかった。
ペンスは、北朝鮮が時間稼ぎをして核兵器と弾道ミサイルの開発を進めてきた時代はもはや終わり、世界中の米国の友好国は、経済、外交上、北朝鮮を更に孤立させなければならないとして、チリのバチェレ大統領に北朝鮮との外交・通商関係を全面的に断絶するよう強く要求した。しかし、チリにとっては、北朝鮮との外交関係を断つことが北朝鮮の核武装計画の放棄に貢献するのか疑問である。ペンスも大言壮語のトランプ外交を納得させることはできなかった。
それにしても米国と南米諸国の間の今日のような相互の無関心さの度合いは、この地域の専門家を驚かせる。トランプがメキシコを蔑み、NAFTA廃棄の脅しを行い、TPPを離脱したことについて、地域全体が憂慮していることを、トランプ政権が無視していることは嘆かわしい。
本来、自由貿易派であるペンスが、トランプが主張する二国間貿易協定がいかにして雇用や投資を生み出すかについて語ったとしても大した成果は望めない。コロンビアでは、アボカドを米国が輸入し、米国産のコメをコロンビアが輸入する合意が発表され、アルゼンチンでは、米国の豚肉の輸出拡大や相互の牛肉の輸入、アルゼンチンからのレモンの輸出が取り上げられた。他方、中国の高官はこの地域の首都を頻繁に訪問し、新たな通商協定に署名し、大規模な投資を提案し、太平洋地域における影響力のネットワークを築こうとしている。
それぞれの訪問国でトランプ政権はベネズエラの独裁政権化を見過ごすことはなく、米国とその欧州の同盟国が人権と民主主義について懸念を共有していることを、ペンス副大統領は説明した。だが、訪問国の指導者たちは、ロシア、トルコ、エジプト、フィリピンなどの強力な独裁者をトランプが称賛してきたことを知っている。
この地域において広まっている傾向は、トランプに対する憤慨であり、トランプに対する恐れではない。ペンスの好むキャッチフレーズは、「アメリカ・ファーストはアメリカ・アローンを意味しない」というものである。すなわち、トランプが米国の繁栄や安全を優先するとしても、米国は引き続き世界の指導国家としての役割を引き受けるということである。トランプに対する幻滅が世界中で更に深まれば、アメリカ・アローンにはならないという公約もむしろ願望にすぎないと受け取られ始めるかもしれない。
出典:Economist ‘Donald Trump blusters, Latin America shrugs’ (August 17, 2017)
https://www.economist.com/blogs/democracyinamerica/2017/08/deflating-superpower