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世界の記述

2017年1月19日

 昨年11月の米大統領選でトランプ氏が勝利したとき、「ヒスパニック有権者の3割がトランプに投票」というニュースが流れ、意外な感じが強調された。だが一言で「中南米に祖先を持つ米国人」と言っても政治意識や行動はそう単純ではない。多様化、細分化されていて、お先真っ暗とみる層もいれば、大いに期待する層もいる。

 実際、どのような人がいるのか。大統領選で投票した約1300万人のヒスパニック系のうち約65%がヒラリー・クリントン氏に、29%がトランプ氏に投票した。メキシコ国境に壁を築くと言うなど、中南米系移民を「仮想敵」にしてきたトランプ氏が3割もの人々に支持されたのは、ヒスパニックがそれだけ多様な証拠と言える。

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 第一のグループはいわば「先住ヒスパニック」。19世紀半ばに起きた米墨戦争(1846~48年)で米国が割譲または購入したテキサス、アリゾナ、カリフォルニアなど旧メキシコ領にそのまま残った人々の末裔だ。彼らは祖先がメキシコ人のため、国の人口調査では多くが「ヒスパニック系」と自己申告するが、もともと住んでいた土地に居続けており「よそ者」「移民」という意識は全くない。必然、政治意識も他の米国人と大きく変わらない。

 第二は移民制限が緩かった2、3世代前に中南米、カリブ圏から来た元移民の米国人。第三が労働ビザなど正式滞在許可を得ている移民の一世で、第四が違法移民だ。

 「ヒスパニックの間にはどの組に属しているかという階級(階層)意識が強く、第一を筆頭に重層的な差別意識がある」。こう話すのは自身が第三に属するサンフランシスコ在住の比較文化学者、オスカル・アルバレス氏だ。ヒスパニック系のそれぞれに「一緒にするな」という意識がある。例えば、必死の思いで働き、ようやく滞在許可や市民権を得た第三の組は、違法移民や犯罪に手を染めるヒスパニックを他の米国人以上に冷淡視する。同じ枠で見られたら、自分たちの地位も危ういためであり、そんな差別構造が第一から第四にかけて歴然とある。

 フロリダ州に多いキューバ移民の場合、こうした見方がより根強く、キューバとの国交が正常化すれば貧しい同胞が押し寄せると、あえて排他的なトランプ氏に票を投じた人も少なくない。

 トランプ新政権の閣僚に今のところ、中南米系は入っておらず、何かと言えば南を敵視し差別をあおるトランプ氏の下、ヒスパニック間の「分断」はより強まるとアルバレス氏はみている。彼を支持した層にも受難の時代はやってくると。

  
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