トランプ政権が主張する、力を通じた平和の追求という考え自体は、基本的には間違っていない。そのために国防費増額を求めたり、核兵器の増強を求めたりしているのは、適切な対応と言ってよい。
昨年12月にホワイトハウスが公表した国家安全保障戦略では、中国やロシアのような修正主義勢力との競争に焦点を当て、さらに1月19日にペンタゴンが発表した国防戦略では「テロではなく国家間の戦略的競争が最大の関心事」と踏み込んでいたが、一般教書演説では、中国やロシアよりもむしろテロ対策に多くが割かれている。
ただ、演説では触れなかったものの、対ロ政策では、昨年12月にウクライナへの武器供与を決め、経済制裁も強めている。核兵器の増強計画も、ロシアが念頭にある。対ロ政策は、「力による平和」の考えに即したものとなっており、懸念されたような宥和政策にはなっていないし、そうなるようには見えない。
トランプ政権の外交安保政策で最も問題があるのは、中東政策である。特に深刻なのは、エルサレム問題とイラン核合意の問題である。
エルサレムをイスラエルの首都と認定したことは、米国が中東和平の公平な仲介者になり得るとの期待を打ち砕くものであり、アラブ諸国、イスラム諸国、欧州諸国の反発を招いた。国連は、1947年のパレスチナ分割決議以降、エルサレムを特別な都市と位置づけてきた。トランプの決定は、中東の混乱を増幅させるばかりでなく、国連総会での反対決議を招き、米国を孤立させる結果となっている。
トランプは、イラン核合意を常に敵視してきた。1月12日には、120日以内に合意の「酷い欠陥」の修正がなければ合意を離脱する、と最後通牒的な主張した。一般教書演説でも「根本的欠陥」の修正を議会に求めている。イラン核合意は、欠陥はあるにせよ、P5+1とイランによるガラス細工のような多国間合意であり、これを見直すのは現実的ではない。米国の一方的離脱は、イランの離脱に口実をあたえることになるが、そうなればイランを縛るものが失われる。これも中東を不安定化させる。
北朝鮮は目下の最大の課題であるから、演説では、多くの言葉が割かれた。米本土に北の核が到達し得る脅威の高まりを指摘しつつ、北に拘束され帰国直後に死亡した元留学生オットー・ワームビアの親や脱北者ジ・ソンホを招き、北の人権蹂躙状況を強く訴えている。人権の重視を言うのは良いことである。北に対しては、最大限の圧力をかけ続けると明言しており、軍事的オプションを排除せずに制裁を強化していく現在の政策には、変更がないものと判断してよいであろう。
なお、演説は、ジ・ソンホの物語を全ての人々の自由への切望の証であると位置づけ、それに続けて、自由で偉大な米国を強調して結ばれている。他方、米国が主導し、米国も多大な国益を得てきた自由主義的世界秩序の維持や強化というようなことには言及がなかった。こういうところにも「米国第一」を垣間見ることができると言えようか。
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