平安時代から続く、中国の唐絵に対する純粋な日本の「大和絵」の伝統を受け継ぎながらも革新し、更に絵画だけではなく書や諸工芸をも包括する特徴を琳派が持つことはよく知られている。光悦は代々刀剣の鑑定・研磨を本業とする上層町衆で、1615年、家康により敷地を与えられた。宗達もまた上層町衆で、扇屋を営んでいた。光琳と乾山は呉服屋であるから、美術というよりも今で言うデザインに精通していたといえる。作品のキャプションに「伝」がついているものが多いのは、一人の作家個人が制作したというよりも工房によって複数の作家の手が入っていることを示している。このように様々な人材が集結することによって、琳派という大きなうねりは形成されていったのであった。
章を追うと、この展覧会は「金屏風」と「銀屏風」の対比というよりも琳派の歴史順になっている。宗像さんによると出光コレクションは「琳派の歴史を満遍なくとらえることができる」ので、1部2部を通して見ることをお薦めする。
屏風や襖はこう見る!
実際の展覧会を見てみよう。展示空間は厳密に四つに隔てられているのではなく、平坦に章が移り変わっていく。1章にある《扇面散貼付屏風》には宗達が持つデザイン性が色濃く残り、2章の《月に秋草図屏風》も天地の分け目がなく、巧みにレイアウトされている印象を受ける。《草花図襖》も同様に分け目がないのだが、中央の芥子(けし)に向かって様々な草花が頭を垂れる姿が、宗達のデザイン感覚と分けられる所以なのであろう。宗像さんは琳派の金地を「豪奢ではなく空間の広がり、厚み、奥行きを見せる為に使用しているのです」と説明する。
屏風や襖を見る時の約束は? まず、作品を必ず右から左に見ていくべし! すると、春から冬に向かう季節の変化を味わうように描かれていることに気付く。ただ、中にはこの法則を破る作品もあるから要注意である。次に、畳に置かれた作品の前で正座する自分をイメージして、ちょっと腰を屈めてみよう。それがコツだ。すると草花が上から覆いかぶさってくるような印象を受ける。周りの人の迷惑にならないように、あくまでも、気をつけて、さりげなく。