ボクシング界の寂しさを象徴する〝事件〟
このボクシング人気の低迷、というよりも一般世間の無関心は、山中ひとりの問題ではない。昨年末には、一時ボクシング界で一番の人気を誇っていた前WBA世界フライ級王者・井岡一翔が、大晦日に予定されていたタイトルマッチをキャンセルし、まだ28歳の若さで突然引退を表明。これも現在のボクシング界の寂しさを象徴する〝事件〟だった。
井岡は昨年4月23日に5度目の王座防衛に成功、元WBA世界ライトフライ級王者・具志堅用高が持つ国内ジム所属選手の日本記録・世界戦14勝に並んでいた。大晦日にはWBA1位アルテム・ダラキアンとの防衛戦が予定されており、好試合となることが期待されていた。勝てば階級を上げ、さらなる飛躍も望めると見られていただけに、残念でならない。
しかし、井岡の引退以上にもっとガッカリしたのは、スポーツ紙に大きく報じられたにもかかわらず、社会的にはあまり話題にならなかったことである。一昔前、具志堅や元WBCバンタム級王者・辰吉丈一郎の時代だったら、タイトルマッチが中止になっただけで、最近の大相撲の不祥事並みに騒がれただろう。
ちなみに、辰吉が記録した最高視聴率は1994年12月4日の薬師寺保栄戦(TBS系列)で、平均が関東39・4%、関西43・8%、札幌40・7%、福岡38・3%。薬師寺の地元・名古屋は52・2%で、瞬間最高は65・6%を記録。関東でも53・4%と、サッカーW杯の日本戦並の数字をマークしている。あれほど盛り上がった最近の平昌冬季五輪も、ここまでの視聴率はあげていない。
4月15日にはWBA世界ミドル級王者・村田諒太の初防衛戦が横浜アリーナで行われる。王座を奪取した昨年10月22日のアッサン・エンダム戦は、7回でエンダムが戦意を喪失して棄権してしまったため、試合内容としては消化不良に終わった(記録は村田の7回TKO勝ち)。今度こそは、ボクシングはこんなに面白いんだ、と世間に知らしめるような試合を見せてほしい。そうでないと、本当にボクシングは終わってしまう。
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