Inside Russia

2018年3月19日

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 さらに、ノビチョークは液体のものもあれば、固体のものあると報告されている。食べ物や飲み物などに粉末状にしたノビチョークを混ぜて、直接、体内に入れ、ターゲットを暗殺することを可能にする。前日に娘のユーリヤさんがモスクワから訪れたことから、娘が持っていた所持品がカギを握っているとの説も浮上している。

 さらに、専門家は自宅を出て、ソーズベリーの公園で倒れる時間の長さに着目する。液体を衣服にかけたり、直接、肌に付着させれば、身体に吸収され、機能を失うまで数時間を要することもあるからだ。

 注目されるノビチョークについて、ミルザヤノフ氏は英BBC放送の取材に対し、「ロシアはこの毒物を開発し、その知見を有して兵器に転化させた国だ。彼らは完全にこの毒物がどのように循環しているかを熟知している」とロシア犯人説を強調した。

 いずれにせよ、事件発生から2週間が過ぎたが、英メディアは、有力容疑者はいまだ浮上していないと報じている。英国内には、プーチン政権に楯突き、近年、死亡したロシア人は少なくとも15人いることも明らかになった。英捜査当局は英政府の指示で、この15人の死因や背景を探る再捜査に入った。

日本でも展開される情報戦

 一方、プーチン政権は今回の国家の関与について真っ向から否定し、情報戦を展開している。ロシア外務省は英国社会やメイ政権の反応を、「サーカス・ショーだ」と皮肉を込めて、コメントした。ラブロフ外相も「まったくくだらない」と発言している。

 リトビネンコ暗殺に関わったとされる、旧ソ連国家保安委員会(KGB)元職員で、現在はロシアの国会議員であるアンドレイ・ルゴボイ氏は事件直後、ロシアメディアの取材に対して、こう語って見せた。

 「ロシアから国外逃亡したジェントルマンは英国で相次いで事件の被害者になっていることをみると、今回の事件はあまり驚くべきではないだろう」

 「英国人は恐怖心にとりつかれ、深刻な病にあるようだ。ロシア人に何か起こると、すぐにロシア人の足跡を探す」

 英国では、ロシア大使館が、自らの国家の関与を否定するツイッター外交を展開しており、キャッチなフレーズやポップな動画像を添付して、連日、英国で反ロシアキャンペーンが行われているというメッセージを送っている。イラストや写真には軽いタッチのものが多く、SNSに慣れ親しんだ若者向けをターゲットにしているが見て取れる。

 日本でも、駐日ロシア大使館が、ツイッターの公式サイトに産経新聞の報道を非難するコメントを出した。16日のツイートにこんなメッセージが記された。

「16日付の #産経新聞 の主張記事に反対。#ロシア が #スクリパリ 氏らへの襲撃に関与したというのが #英国 のプロパガンダ。それが愚かにコピーされているだけだ。露が事件の関与を否定し、国際法に基づく取調べに協力する用意がある、と明確に声明した。この事実が産経の筆者に無視されて、遺憾だ」(https://twitter.com/RusEmbassyJ/status/974560583130517504

 このコメントには、「PROPAGANDA(プロパガンダ)」という英語の言葉が積み重ねられ、「FAKE NEWS(フェイクニュース)」という文字を浮かび上がらせる画像が付いている。

「裏切り者は長く生きない」

 ロシア側の反応は、事件発生から4日経った3月8日に国営放送ニュース「ブレーミヤ」の司会者キリル・クレイメノフ氏が発した言葉が、おおよその保守系ロシア人や政府関係者の気持ちを代弁しているように思える。

 クレイメノフ氏はこう言った。

 「私は誰の死も望んでいない。しかし、純粋な教育的な観点で、今回、ある警告を発したい。それは、世界中で最も危険なものの一つは、裏切り者の告発ということだ。(裏切り者が)高齢まで生きることはごくまれだ。薬物の密売人、アルコール依存症、薬物依存症、ストレス、ノイローゼ、自殺なども裏切りものの職業的な病だ。裏切り者やただ単にわが国を嫌いな人に対してはこう言いたい。もし外国に住むなら、英国を選ぶな、と。何かが間違っている。おそらく(英国の)気候が問題なのだ。英国では最近、重大な結果を及ぼすきわめて奇妙な事件がたびたび起きている」

 3月18日、ロシア大統領選挙が行われ、プーチン大統領が再選された。ロシアではいま、世界中で反ロシアキャンペーンが進み、国内で起きているネガティブな出来事は「全て欧米の陰謀によるものだ」という雰囲気が渦巻いている。その時代の空気は国営メディアのプロパガンダ報道によってロシア社会の隅々まで行き渡り、「国民はプーチン大統領のもとで一致団結して、欧米に立ち向かうべきだ、それしか選択肢はない」という風潮を増強させている。

 今後、スクリパリ氏の事件の真相はもしかしたら曖昧なまま終わるかも知れない。しかし、このダブルエージェントを襲った事件が、プーチン政権の支持基盤をさらに強める追い風になったことは事実であり、大いなる皮肉としかいいようがない。

  
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