官僚記者でも新聞民工でも堕落した記者でもなく、体制の中にあって報道統制に妥協しつつも、いつか本当の報道の自由を勝ち得る日がくるのだと信じて、ネットを駆使し可能な範囲で報道の使命を果たそうと努力する、彼のような記者も少なくないのだ。私は彼のような体制内記者こそが、中国の報道環境を変えてゆけるのだろうと思う。
中国の厳しい報道統制を見ると、日本は本当に大きな自由のある国である。体制批判をしても逮捕されることもなく、現場で警察に殴られる心配もほとんどなく、企業の不正を暴いたことで家族が交通事故にあう心配もめったにない。しかも取材費や給与水準は素晴らしく高い。それが世界報道の自由ランキング11位の日本と171位の中国との差だ(2010年国境なき記者団調べ)。私を含めて日本の記者たちは、この自由を十二分に使って、本当に果敢な報道ができているだろうか。中国の記者たちの苦悩と苦労を見れば、そういう反省に立たざるを得ない。
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第1回、第2回はこちら
中国メディアの裏側(1) 官僚記者と新聞民工
中国メディアの裏側(2) 危険な職業
福島香織(ふくしま・かおり)
ジャーナリスト。大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、 2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。著書に『潜入ルポ 中国の女―エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)、『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版刊)。近刊に『中国のマスゴミ―ジャーナリズムの挫折と目覚め』(扶桑 社新書)。日経ビジネスオンラインで「中 国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス~」連載中。
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