シェアビジネスに利益を生んでいるものが少ないのも有名な話だ。美団に買収されて話題になっているシェア自転車のMobikeも、大量のユーザーデータを持っているものの、ほとんど利益を上げていないとされる。ライバルのofoも一時期財務がひっ迫していると伝えられた。多くの事業は、投資を受けて「焼銭(キャッシュを燃やす)」しながらユーザーやサービス対象を拡大する段階にとどまっており、自ら利益を生む段階には至っていない。シェアビジネス自体が、技術革新にあまり結びついていないのも、冷淡にみられる理由になっている。
シェアビジネスは、「洗牌(シーパイ、麻雀の牌を混ぜ合わせて次のゲームに備えること)」の段階に移って久しい。参入業者が激増し、業界全体が異常なまでに上り調子だった時期は過ぎ、落ち着きを取り戻しつつある。先のiiMedia Reserchの報告書は、管理監督政策や洗牌を経て、市場は少しずつ秩序だった成長期に入っているとする。
シェアビジネスは正常化しつつある
中国には「風口(フォンコウ)」という言葉がある。これは風の吹く場所という意味で、どこかに「風口」つまりビジネスチャンスがあると見るや、大量のプレーヤーが一気に押し寄せるということが繰り返されている。シェア自転車やシェアバッテリーは一時期まさに風口になっていた。今後はカーシェアリングが風口になるとの予測もある。
だが、特にこの4月に入って、「シェア経済は死んだ」と言いたくなるようなニュースが相次いでいる。まずはMobikeが約4000億円で美団に買収されたと報じられた。続いて、シェアオフィスの裸心社(naked Hub)が、かつての評価額の半値以下で米の同業者WeWorkに買収された。デザインにこだわったオフィスを中国を中心に世界で展開する同社は、昨年には会社運営にかなりの困難を抱えていたとされる。買収額は約4億ドル(約429億円)。昨年7月に裸心社は10億ドル(約1073億円)という評価額をつけられており、1年足らずで価値が半減したことになる。
シェア経済への過剰なまでの期待が冷め、投機的な側面の強い「風口」ではなく、より現実的なビジネスの場にシフトすることを歓迎する論調もある(証券時事報「シェア経済は『資本の風口』からビジネスの本質へ」4月10日、http://kuaixun.stcn.com/2018/0410/14101744.shtml)。
シェアはシェアでも、投機の場と化していたこれまでのビジネスとは違った形のビジネスを成長させようという動きもある。シェア経済の中国語訳は一般的に「共享経済」という言葉が使われてきた。ところが、「分享経済」という言葉を「共享経済」とは別の意味で使おうという主張がされている。プラットフォームや会社が所有者となって消費者にサービスを提供する、これまで流行った「共享経済」とは違い、自分の持っているものをシェアする「分享経済」こそがシェア経済の本質だとする考え方だ。
ただ、「共享」も「分享」もシェアの意味で、結局、どちらの言葉もシェア経済(sharing economy)と訳すより仕方ない。中国で散々投機の対象となった挙句に「死んだ」とまで言われる現状のシェア経済を「共享経済」と定義し、それとは違うまだ成長の見込みのある「分享経済」があると言うことで、シェア経済の延命を図っているだけではと感じる。
シェア経済にまだ成長の潜在性があるのは間違いない。ただ、その拡大の仕方があまりにすさまじかったために、社会に残した爪痕は大きい。落ち着きつつある業界で今後生き残るためには、消費者に対して一時の流行ではなく真に価値あるサービスを提供できるかどうかがカギを握る。
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