第2のシナリオ = 米朝和解宣言
抽象的な努力目標を掲げた第1のシナリオとは対照的に、双方にとって目に見えるかたちの成果を大胆に盛り込んだ歴史的な「宣言」発表にこぎつける。第1のシナリオに比べその可能性は著しく低いものの、厳しい国連経済制裁により経済的苦境に直面しつつある金正恩委員長と、低迷する支持率に加え、自らのセックス・スキャンダル、ロシア疑惑など国内的不安材料を抱えたまま中間選挙を11月に控えたトランプ大統領の2人が、ここで一気呵成に局面打開の大勝負に打って出ることも考えられる。
その場合、次のような内容が「宣言」に盛り込まれよう。
- 双方はそれぞれに対する敵視政策に終止符を打ち、朝鮮半島の非核化実現の前提として相手国を核攻撃の対象から外すことを互いに約束する。
- 北朝鮮による核兵器およびミサイルの廃棄の約束と引き換えに、米国は北朝鮮の体制保証を確約する。
- 北朝鮮は核兵器およびミサイル廃棄に関連する国際原子力機関(IAEA)による査察と検証を受け入れる。
- 双方は現在の「休戦協定」に代わり「平和協定」締結のための交渉を開始する。
- 米朝国交正常化実現のために、双方が相手国の首都にとりあえず「連絡事務所」を設置、高度のレベルの政府当局者を駐在させる。
今ここに挙げた2つのシナリオは、北朝鮮がNPT(核不拡散条約)脱退を表明した1994年6月以降、核開発に本格的に踏み切って以来、米朝間、南北間の2国間協議、そして日本、中国、ロシアを加えたいわゆる6カ国協議を通じた度重なる交渉がいずれも失敗に終わった現実を踏まえたものであり、今回の米朝初の首脳会談では、場合によっては、第1と第2のシナリオをミックスしたものになる可能性も否定できない。
会談内容のほかに注目されるのは、会談場所だ。
今のところ、トランプ大統領は、3月末、ポンペオCIA長官が北朝鮮を極秘訪問し、金正恩委員長と会談した結果を踏まえ、会談場所について「5つの候補地」があることを明らかにしている。その中には、スウェーデンのストックホルム、インドネシア、シンガポール、朝鮮半島38度線の板門店、モンゴル・ウランバートルなどの具体的名前がうわさとして挙がっている。しかし、両国当事者の詰めの協議の末、結果的に意外にも北朝鮮の首都平壌に落ち着くことも視野に入れておくべきだろ。
その理由として、1、金正恩委員長が身の安全確保などを理由に国外開催に最後まで反対し続ける。2、会談場の設営、トランプ一行の宿舎確保、世界からの報道陣の受け入れなどの面でも平壌が条件的に恵まれている。3、トランプ大統領自身が外交慣例などを無視した破天荒な行動に出ることをいとわず、むしろ常識的な他の開催地より国交もない“敵国”にあえて乗りこんで会談することでアメリカ国内マスコミの最大露出の効果を期待できると判断する可能性さえ否定できない―などが挙げられよう。
もう一点、首脳会談準備にあたって目が離せないのが、キッシンジャー氏の動きだ。同氏はトランプ政権発足以来、大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー上級顧問と常時連絡を取り合っているほか、これまでにも何度かホワイトハウスに出向き、大統領に助言を行ってきた。今回、米朝首脳会談という世界が耳目を集めるビッグイベントを前に、トランプ大統領が近々に同氏と会談し、米中首脳会談成功の経験を踏まえ、自ら北朝鮮指導者との会談にいかに臨むべきか、意見を求めることが十分予想される。最終的には、その結果次第で、米朝首脳会談の展開が大きく変わることもありうる。