第3のシナリオ = 会談延期
最後に残されたシナリオが、会談自体の延期だ。
前述したとおり、米中首脳会談の場合は、開催にあたって米側はキッシンジャー氏はじめホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)の専門スタッフが事前に足を運び、発表する上海コミュニケの内容、具体的表現などについて、中国側と入念な打ち合わせを行った。
しかし、今回米朝首脳会談の場合は、報道されているかぎり、米側の本格的準備は、つい最近のポンペオCIA長官の訪朝一回のみだ。しかも、同長官には国務省やホワイトハウスの北東アジア情勢、外交交渉などに通じた実務経験者は同行しておらず、CIAの情報担当スタッフが1人だけ随行したにすぎない。
この延期のシナリオに関連して、トランプ大統領はさる18日、フロリダ・パームビーチで行われた安倍首相との首脳会談後の共同記者会見で「(金正恩委員長との)会談が成功しないと思うなら会談しない」と含みのある発言をしている。
ワシントンの専門家筋の間では、この発言について、自ら開催時期を当初は「5月中」その後「5月か6月上旬」とずらしてはみたものの、実際には、首脳会談で成果を謳いあげるまでの詰めの作業が思ったほどはかどっておらず、開催までの時間が迫ってくるにつれて予防線を張ったのではないか、といった見方も出ている。
ただ、仮に会談延期になったとしても、それは「交渉決裂」ということにはならない。なぜなら、もし、決裂した場合、双方そして世界にとって最悪のシナリオが待ち受けているからだ。それは、北朝鮮による核開発の加速と、アメリカによる軍事攻撃開始の選択だ。
従って、米朝双方にとって「交渉決裂」だけは回避すべき共通の意思であり、そのためにも、やむなく世界のマスコミに向けて延期を発表したとしても、「首脳会談に向けての協議継続」の前向きの姿勢を表明せざるを得なくなる。
また、会談延期となった場合でも、その際に、トランプ大統領自身の口を通して、現在北朝鮮側に拘束中の3人のアメリカ人の釈放決定が発表されることも十分予想される。この件については、大統領はつい最近、両国が「外交的雪解け」の一環としてすでに交渉中である事実を認めたばかりだ。そして実際に3人のアメリカ人釈放が実現すれば、首脳会談自体が延期されたとしても、にわかに芽生えた米朝関係改善への米国民の期待をつなぎとめる効果が期待できるかもしれない。
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