6月に予定される米朝首脳会談に向け、北朝鮮は核実験場の解体を進め、米国人3人を釈放するなど、米朝間の緊張緩和が少なくとも表面上は進んでいる。最近の米朝関係において主導権を握っているのは、北朝鮮の方であるように思われる。
この点について、ワシントンポスト紙コラムニストのイグネイシャスは、5月3日付けの論説(David Ignatius, ‘Should Kim get the credit for the Korean detente?’, Washington Post, May 3, 2018)で、過去5年の北朝鮮側の文書を検証し、金正恩が過去5年間、非核化のオファーと米国への接近を計画していた、と分析しており興味深い。イグネイシャスは、注目すべき北の言動として、以下の諸点を挙げている。
・2013年3月、金正恩は朝鮮労働党の会合で「並進路線(核兵力強化と経済改善の同時進行)」を表明。
・2013年6月16日、国防委員会は「朝鮮半島の非核化は我が指導者の命令」との言辞を含む声明を発表。
・2016年7月6日、「朝鮮半島の非核化は金日成と金正日の命令であり、党、軍、人民の堅固な意志である」とする、北朝鮮政府スポークスマン声明を発表。
・昨年11月29日のミサイル打ち上げ後、金正恩は「核戦力を完成するという偉大な歴史的結果を実現した」と宣言。非核化の言にも拘わらず、ここまで核・ミサイル実験は続いた。
・今年の新年の辞で金正恩は、「北のミサイルは米全土を標的にし得る」と述べる一方、「繁栄する国家の建設」と韓国への外交的動きを強調したい旨を表明。
・平昌オリンピックへの参加の提案により、一連の会合、信頼醸成措置、非核化についての公の約束、トランプ・金の首脳会談への道が加速。
・4月には、金正恩は労働党中央委総会において、「並進路線」の勝利、経済強化の新しい「戦略路線」への転換を表明。
上記は、米朝首脳会談が実現するに至った経緯についての有益な観察である。米国および日本のタカ派には、北朝鮮に制裁など最大限の圧力を加えた結果、金正恩が白旗を掲げ、交渉に応じるに至ったとの見方があるが、それには疑問がある。制裁が北の経済に打撃を与えたことは確実であるが、金正恩は核戦力の完成に伴う自信をもって交渉に乗り出してきたと考える方が実態を反映している。イグネイシャスの観察は、それをこれまでの北側文書から証明している。