2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2018年5月11日

〝浮かれすぎ〟とでも言おうか。

 4月の南北首脳会談、6月12日に予定されている米朝首脳会談など、朝鮮半島情勢が劇的な展開を見せるなか、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「ノーベル平和賞を受賞する」と考えている人が、世界に少なからずいるというから驚いた。   

(kmlmtz66/iStock)

 野次馬根性、興味本位もあるかもしれないが、やはり非核化への期待、歓迎ムードが高じた結果だろう。「金正恩は英雄だ」など、荒唐無稽、ありうべからざることだが、ブラックユーモアと一笑に付してはいけない。一流メディアですら、その可能性を予測、支持しているのだから。米政府からテロ支援国家に指定されている危険な国の独裁者に平和賞など与えたら、世界平和を崩壊させてしまう。

 金正恩ノーベル平和賞説は、先月末に日本や韓国のメディアで報じられた。報道(韓国・中央日報電子版、4月30日)の要旨を紹介する。

  英ブックメーカー(賭け屋)のラドブロークスの予想では4月29日(現地時間)現在、韓国の文在寅(ムン・ジェィン)大統領と金正恩が「2018年ノーベル平和賞」で、賭け率4対6の1番人気。4対6は100ドルを賭けて当たれば166ドルを受けるという意味で、多くの人が、2人が受賞する可能性が高いとみている。「トランプ大統領」はラドブロークスで1対10の賭け率、「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)」と共に2位に並んでいる。

 別の英ブックメーカー「コーラル」でも「文在寅-金正恩」が4対6の賭け率で1位、「トランプ大統領」は2位だった。

 南北首脳会談が4月27日に韓国と北朝鮮の軍事境界線、板門店で行われた直後の〝興奮冷めやらぬ〟タイミングでの予想だったから、それが影響したのはまちがいないだろう。人の心は移ろいやすいから、今は情勢が変化しているかもしれないが。

 2000年に、韓国の金大中(キム・デジュン)大統領と、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)朝鮮労働党総書記(いずれも当時)が最初に南北首脳会談を行った際には、金大統領が同年のノーベル平和賞を単独で受賞した。南北首脳会談は、平和賞の選考委員にとっても関心の対象のようだから、文大統領が候補にあがるのは予想されたことだ。

 トランプ大統領については、その政治姿勢をめぐって米国内で議論はあるが、もちろん史上初の米朝首脳会談に応じる決断をしたことが評価された。

暴挙に「免罪符」 

 文在寅、トランプ両大統領の受賞については、今後のまっとう、冷静な議論、選考にゆだねるとして、問題は金正恩だ。

 両大統領との共同受賞者としてのみ名前があがっているが、どんな形式であるにせよ、ノーベル賞受賞が現実になれば、彼個人、彼が率いる〝ならず者国家〟の過去の所業に免罪符を与える結果になってしまう。金正恩受賞を予想、支持する人たちには、それを理解しているのか。

 金正恩は、4月20日、ICBM(大陸間弾道弾)の発射実験中止、核実験場の廃棄などを表明した。その理由として「核戦力兵器化の完結が検証され、核実験や(ミサイル)試射の必要はなくなった」と説明した。本音はともかく、表現だけを見ると、明らかな「核保有宣言」だ。
 
 北朝鮮の過去の暴挙の数々は、いまさらあげつらう必要もなかろう。日本人拉致という重大な国家犯罪を引き起こし、いまなお釈放する素振りすら見せていない。昨年まで各国の強い批判、制裁を科されながら、核実験、ミサイル実験を繰り返し強行してきた国であり、金正恩はその指導者なのだ。

 過去の行為を反省、精算せず、首脳会談にでてきたからといって、金正恩に平和賞を与えるというのは、あまりに感情的、非理性的ではないか。

 北朝鮮にとってみれば、ノーベル平和賞という最高権威ともいえるお墨付きを与えられれば、もはや恐れるものはない。今後、どんな行動に出てくるかー。過去を振り返ってみるとき、強く憂慮、懸念せざるを得ない。


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