2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年5月23日

 米側が、圧倒的に強い立場から非核化を迫れると考え米朝会談に臨むと、予想もしない北からの反発に驚くかもしれない。たとえばボルトン大統領補佐官は、リビア方式による北朝鮮の非核化が一つの方法と言っているが、一方的にリビア方式で北朝鮮を非核化するということはありえない。北は、北の非核化ではなく、ずっと朝鮮半島の非核化を言ってきている。韓国に米国の核がないことを厳格な査察により証明することを求めてくるかもしれないし、米国の核の傘、拡大抑止にも問題提起してくるかもしれない。リビアの場合、リビアは核機材を米国に引き渡し、米国が国外に持ちだしたが、北の場合すでに核弾頭がある。リビア方式を適用すれば、この弾頭を米に引き渡し、国外搬出することになるが、こんなことは起こらないだろう。北の高官は、「リビアのカダフィは核開発放棄をしたので無残に殺された」と言ったこともある。

 米朝首脳会談については、決裂して緊張対立が戻ってくることも、米国が自国の安全保障のみを確保する安易な妥協、例えば、米国への攻撃力、ICBMを抑え込むことで満足することも望ましくない。北の核問題は複雑な問題であり、1回の首脳会談で解決をするのはとても無理である。事務レベル協議、長官級協議,何回かの首脳レベルの会合を経て初めて解決できる問題であろう。平和協定、体制の保証など、多くの関連問題を考えてみても、そうである。とりあえずは、協議の継続に合意することが現実的目標になるだろう。交渉に時間的区切りをつけることについても、いつまでもだらだら交渉できないが、その利害得失はよく考えるべきである。

 北のような既に核兵器を開発保有している国の検証可能な非核化は、ほぼ不可能と思われる。核兵器の製造ノウハウは北の手中にあり、核弾頭は簡単に隠匿できる。米ソ・米ロ軍縮交渉は、運搬手段すなわちミサイルの制限を通じて行われているが、そういうアプローチが良いと思われる。これは衛星からの監視で検証し得る。大陸間弾道ミサイルも中短距離ミサイルも制約していくのが良い。IAEAの査察は核爆弾の燃料であるプルトニウムと濃縮ウランの量を規制するのが主であるが、北がこれまで生産したこれらの材料の量は特に濃縮ウラン量については、知ることが出来ない。「完全、検証可能な、逆戻りできない、非核化(CVID)」のスローガンを現実の可能性に照らし再定義し、かつ運搬手段に対する制限を図るということであろう。運搬手段の制約は、北の化学兵器、生物兵器対策にもなる。
 

  
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