Washington Files

2018年5月21日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 ところが、今年に入り、世界情勢の急展開により対策が後手後手に回るなど、批判にさらされる場面も出てきている。

 その好例が朝鮮半島情勢だ。去る2月、ピョンチャン冬季五輪をきっかけとして南北友好親善の動きがにわかにあわただしくなって以来、韓国大統領特使の訪朝による金正恩労働党委員長との会談、板門店における南北首脳会談、そしてポンペイ米国務長官の訪朝、金委員長との会談による歴史的な米朝首脳会談開催の決定など、世界的ビッグニュースがあいついだ。

 しかし、米政府にとって朝鮮半島情勢の情報収集・分析のために最も重要なアンテナとなるはずの駐韓大使は空席のままだったばかりか、本省で朝鮮半島含め東アジア地域の諸問題を統括する「東アジア太平洋担当国務次官補」もオバマ政権以後、ずっと不在だったことから、ホワイトハウスと国務省との政策調整などがはかどらず混乱が続いた。

 このうち、駐韓大使については、4月にはいって、いったんは駐オーストラリア大使に内定し議会承認もすませていたはずのハリー・ハリス太平洋軍司令官を急遽、方針転換して抜擢登用したため、ホスト国としてあてこんでいたオーストラリア国内でもトランプ政権に対する批判があいついだ。

 「東アジア太平洋担当国務次官補」も去る2月、それまで1年近くもワンランク下の「国務次官補代理」の職にあったスーザン・ソーントン女史の繰り上げ人事がドタバタで決まったばかりだった。

 中東地域でも、トランプ大統領による「イラン核合意」見直し、駐イスラエル大使館のテルアビブからエルサレムへの移転強行など、情勢は緊迫の度を高める一方だが、大使不在国が多いことからアメリカの中東政策策定、遂行全体にも支障が生じていることは否めない。

思想上の粛清

 トランプ政権の“どぶさらい”作戦には、さらに見逃せないもうひとつの重要な側面がある。すなわち、「ディープ・ステイト(deep state)批判」として知られる、いわば思想上の“粛清”の動きだ。

 「ディープ・ステイト」とは、連邦政府の中枢で隠然たる影響力を行使してきた強大な官僚機構の存在を指す言葉だが、大統領以下トランプ・ホワイトハウスは、官僚たちの大半がリベラル思想に凝り固まった危険な集団だとして、ことあるごとにやり玉に挙げ、人事面で配置転換を進めるなど、攻撃の対象としてきた。

 とくに2016年大統領選挙でトランプ候補に投票した首都圏在住有権者は全体のわずか4%だったといわれるだけに、トランプ氏の「ディープ・ステイト」に対する不信感は

 歴大統領の中でもとくに根強いものがある。このため、ホワイトハウス入りと同時に最高幹部たちに対しても、各省庁における人事刷新に当たっては「能力より大統領に対する忠誠度」を最重要視することを徹底させるよう指示したといわれるほどだ。

 そして自らも、「忠誠度」が疑われる大物たちを政権発足1年もたたない間に途中で解任する人事を行った。その中には、ジェームズ・コーミーFBI長官、後任のアンドリュー・マカービー長官代行、ゲリー・コーン国家経済諮問委員会委員長、レックス・ティラーソン国務長官、H.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)らが含まれる。また、現在のホワイトハウス広報局長は昨年1月以来、6人目だ。 

 各省庁の中でもとくに目の敵にされているのが、国務省だ。とくに大統領が就任早々、イスラム諸国7カ国からの旅行者に対し入国禁止行政命令を出した際、省内および海外勤務の外交官たち約1000人が異議を唱えたことが報道されて以来、ホワイトハウス指示による省内の“魔女狩り”がじわじわと進んでいる。

 こうした動きに嫌気してか、これまでに国務省最高ランクに位置する外交官のうち「60%」(有力雑誌『ニューヨーカー』)が職を辞する結果になっているという。

 「アメリカ・ファースト」を唱えてスタートした新政権だが、内外政策の混乱をよそに、むしろ「トランプ・ファースト」の体質が見え隠れし始めている。

  
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