カッターのような製品は通常、構想が固まるとCAD(コンピュータ支援設計)で図面を起こし、それから試作するのだという。だが、オルファでは試作の後に、CADに進むという手順が伝統となっている。手に持って使う製品であるため、使い勝手や安全性の面から、試作による商品検討を重視するためだ。
1956年に、消耗した刃を折ることで新しい刃に切り替える方式を発明した初代社長の岡田良男(故人)が残した開発手法である。ちなみに「オルファ」という社名は「折る刃」から、「キリヌーク」は「切り抜く」から来ており、大阪の会社らしく洒落っ気がある。
美大で工業デザインを専攻し、96年の入社後は商品開発ひと筋に来た岡畑は、「自分の思いを1から10まで形にできる」という試作先行型の開発手法が気に入っている。だが、今回ばかりはその試作にかつてない時間を要すことになった。「これで行けると思うと壁に突き当たる」連続で、試作品は10種に及んだ。ポイントとなる板バネは幅が2ミリほどのものを本体にうまく収容することができた。刃については「折る刃」方式も試したものの、刃先に精密な寸法が求められるため、見送った。刃は取り替え方式とし、本体内に替刃が2枚収納できるようにしている。
岡畑は当初、このキリヌークについて「デジタルの時代だし、あまりにもニッチではないか」と、疑問半ばで開発に着手したという。しかし、発売すると商品系の雑誌などから取材依頼が次々と寄せられた。文具に関するブログでも数多く言及され、その反響に驚かされた。その驚きは、苦労した分大きくなる達成感へと変わっていった。
国内トップメーカーであり、内外で高いブランド力を保持するオルファだが、多分に漏れず安値を武器とする新興国の攻勢に直面している。開発者としてベテランの域に入ってきた岡畑だけに「新興国の製品も徐々に良くなってきている」ことを、ヒシヒシと感じ取っている。オルファは、刃の製造からカッターの組み立てまで、全て国内でまかなっている。
メイド・イン・ジャパンは、品質や信頼性を確保するためのこだわりだ。岡畑は「成熟し、定番化された商品だけど、当社にしかできないことがあるはず。日々、それぞれの製品に足りないところを探して改善を積み重ねたい」と強調した。新製品の開発にとどまらず、定番アイテムについても改善は怠れないというわけだ。シンプルだが、日本でのモノづくりを守るための熱い思いが伝わって来た。(敬称略)
■メイキング オブ ヒットメーカー 岡畑賢治(おかはた・けんじ)さん
オルファ 商品開発部課長代理
1973年生まれ
大阪市に生まれる。プラモデル・ジオラマなど工作が大好きで小学生のときには、祖母からよく「この子は、プラモデルさえ与えておけば、丸1日、ほんまにおとなしいなぁ」と、可愛がってもらった。
1988年(15歳)
高校生になってもモノづくりへの関心はそのままで、学校では「図画工作」が得意科目だった。大学では絵を学ぶために「美大」へと考えたが、「絵で食えるのか?」という不安もあった。そこで、仕事が比較的多いだろうと思えた工業デザインを専攻することにした。
1991年(18歳)
大阪芸術大学に入学。同級生たちのデザインに対する意識の高さに刺激を受けた。未来の生活を想像した製品のデザインなど、企画力を高める勉強をした。
1996年(23歳)
「グッドデザイン賞」をとった企業に「採用をしていないか」と片っ端から電話をかけ、オルファと出会った。今の仕事では、アイデアごとに試作品を作るという地道な作業の連続で、大変ではあるが、その分やりがいもある。
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