昨年夏、著名な音楽家がコンサート中にドラムを担当する中学生に往復ビンタをしたと報じられたことは記憶に新しい。音楽家の行動について世論は賛否両論。音楽家の行動を支持する人からは、「暴力はよくないが、しつけのためなら仕方ないこともある」といった声も聞かれた。
体罰を容認する人は、「しつけに体罰が有効である」「子どもが生意気にならないために、ときには殴ることが効果的だ」と思っているのかもしれない。しかし、体罰がしつけに有効であるという根拠となる実証データはない。逆にあるのは、体罰は子どもの成長に「望ましくない影響しかない」という研究結果だ。この結果は昨年5月に発表された厚労省の「愛の鞭ゼロ作戦」でも紹介されている。
「愛の鞭ゼロ作戦」では、「厳しい体罰により前頭前野の容積が19.1%減少する」など、体罰が子どもの脳に深刻な影響を及ぼすことを示す研究結果が引用されている。この研究を行ったのは、福井大学の友田明美教授。大きな話題を呼んでいる友田教授の著書『子どもの脳を傷つける親たち』(NHK出版新書)について話を聞いた。
1987年、熊本大学医学部医学研究科修了。医学博士。
同大学大学院小児発達学分野准教授を経て、2011年6月より福井大学子どものこころの発達研究センター教授。同大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長兼任。
2009~2011年、および2017年4月より日本科学技術協力事業「脳研究」分野グループ共同研究日本側代表者を務める。
著書に『新版 いやされない傷――児童虐待と傷ついていく脳』など。
体罰は百害あって一利なし
――「暴力は良くないけれど、愛のある暴力もある」。そんなことを言う人が未だに多く、驚きます。
友田:日本は体罰に対する認識が甘いですね。叩いて行動を修正できると思っている。スポーツ界でも多く見られます。研究では「体罰は百害あって一利なし」とわかりました。この結果に厚労省も驚いていました。
――ときには怒鳴ったりぶったり、厳しくしないと「大人が子どもに舐められる」という考え方の人もいるようです。
友田:暴力をふるう人が空威張りしているのだと思います。子どもとコミュニケーションがきちんと取れておらず、暴力や暴言を繰り返してしまう。しつけと体罰は同じではありません。体罰は「虐待」です。ただ、私は「虐待」という言葉はあまり使いたくないと思っています。「虐待」という言葉の響きが強くて、「自分たちには関係ない」と思ってしまうからです。