安保激変

2018年7月19日

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村野 将 (むらの・まさし)

ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て現職。日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program,米国務省International Visitor LeadershipProgram(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

(3)極東における在日米軍・日米同盟の指揮統制能力の機能強化

 在韓米軍の縮小・撤退による影響をハードウェアによって補完する以外にも、地域の安全保障を支えるソフトウェアの刷新も重要だ。戦時作戦統制権の返還や国連軍司令部の解体によって、在韓米軍司令官の指揮統制権限が縮小した場合には、在韓米軍に代わって、在日米軍と日米同盟の極東における指揮統制能力を高めるべきである。

 こうした状況になれば、米軍内では在韓米軍司令官の階級を現在の大将から中将に引き下げることが検討されるだろう。そこで現在インド太平洋軍司令官の作戦統制下にある在日米軍司令官の階級を中将から大将に格上げして、朝鮮半島を含む独自の作戦責任領域を設定して域内での指揮権限を拡大し、朝鮮半島から東シナ海(場合によっては台湾を含む)のグレーゾーン及び平時の情報収集機能から有事の指揮統制・事態対処機能を在日米軍に集約して、共同運用調整所を通じた日米間の綿密な連携体制を強化する。在韓米軍の大幅な再編が行われれば、現在朝鮮半島有事を前提に策定されている、米韓の各種連合作戦計画も修正を余儀なくされるだろうから、ここで新たに日本を含めた各種事態における共同作戦計画の策定・再調整を行うことも必要だろう。

 またこの作業において、実効性のある拡大核抑止の信頼性強化のために、戦略軍やインド太平洋軍本体を織り交ぜた核作戦計画の策定やそれを確認するための日米(韓)の定期的な机上演習を実施すべきである。「朝鮮半島における完全な非核化」の定義をめぐって、米国が日本に差し掛けている「核の傘」の信頼性に影響を及ぼすような譲歩を認めることは絶対に避けなければならない。

 在日米軍および日米同盟の指揮統制機能が強化され、なおかつ自前のISR能力と策源地攻撃能力を保有していれば、日本はより主体的な形で攻撃目標選定などの意思決定プロセスに関与できるはずであり、現在の米韓連合司令部下での事態対応よりもその効率は大きく改善されるであろう。在韓米軍から在日米軍への権限シフトについては、韓国の強い抵抗が予想されようが、そうした検討を米韓両国に打診すること自体が在韓米軍の機能縮小を思いとどめたり、日本が関与しうる幅を拡大させ、結果的に日米韓の連携を強化するレバレッジとなる可能性もある。

(4)韓国との連携維持

 朝鮮半島有事を考慮せずとも、中長期的な極東の安全保障秩序の文脈から、韓国との関係をどのようにマネージするかは引き続き重要な課題である。対中抑止・事態対処という観点からは、そもそも3万人弱の在韓米軍は、主力の地上部隊はもとより、海空軍の兵站支援機能を含めても、それらを対中有事で効果的に運用するのは容易ではないだろう。現時点でも、THAADを含む在韓米軍のアセットは、韓国を米側に引きつけておく政治的象徴としての意味合いが大きい。

 米国の国防シンクタンク・コミュニティでは、台湾、東シナ海、南シナ海問題を発端とする中国との対決を想定した様々なシナリオ・シミュレーションが行われているが、いずれのシナリオでも本格的な米中衝突となる場合には、韓国は日米に協力しないよう中国から政治・経済的な強い圧力をかけられ、戦域から切り離されて中立化されると考えられている場合が少なくない。そのため、烏山や群山といった主要な航空基地を対中有事の分散候補地として米軍が使用できる保証はない。

 しかし多くが期待できなくとも、日本が韓国と日常的に敵対するようなシナリオに進むのを回避する努力は必要である。現実問題として、韓国が北朝鮮は脅威ではないと言い切ってしまえば、日本との間で今以上の防衛協力を進展させることは難しくなるため、実務家や専門家コミュニティは常に問題・認識の共有に努めておくべきであろう。特に、国連軍司令部が解体される可能性を見越して、日韓物品役務相互提供協定(ACSA)の締結に向けた取り組みを進め、日韓の防衛協力の枠組みを維持しておくことが重要である。

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