2024年4月19日(金)

安保激変

2018年7月19日

(2)策源地攻撃能力を含む日本の統合ミサイル防衛能力の強化

 在韓米軍が縮小・撤退すれば、北朝鮮からの限定攻撃が行われた場合のトリップワイヤ機能は損なわれるが、それでも有事の介入・対韓防衛コミットメントが不可能となるわけではない。しかし、在韓米軍の地上戦力という紛争の初期段階における即応・介入能力が欠落し、韓国軍の通常戦力による反撃能力と、米軍の域外打撃力との間にエスカレーションラダー・ギャップが生じてしまうことは避けられない。この場合の米側の反撃能力は、洋上からの巡航ミサイル攻撃か、在日米軍基地やグアム、あるいは空母から発進する航空戦力によって提供されることとなるが、北朝鮮からすればそれらの使用を思いとどまらせるための核恫喝を行ったり、物理的な阻止攻撃を行う誘因が高まるはずであり、危機における安定性が低下する恐れがある。

 この状況において、北朝鮮の核恫喝により米軍の介入が阻止される事態を避けるには、日本がミサイル対処能力の総合的な強化・向上を図ることによって、米軍が地域への防衛コミットメントを継続できるよう、安心を供与していくこと(assurance)が欠かせない。この点において、イージス・アショアの導入は、日本の本土防衛はもとより、米軍の前方展開プレゼンスやその意思決定に関わる人々に対する安心供与に資する。また、新型の迎撃ミサイル「SM-3BlockⅡA」が配備されれば、日本からグアムを直接防衛することのみならず、従来日本周辺で警戒監視にあたっていた米海軍のイージス艦の負担を軽減したり、それらを対地攻撃やミサイル防衛など別の任務に振り分けることも可能になる。またイージス・アショアの配備予定時期(2023年)に鑑み、それよりも早くに在韓米軍からTHAADの撤退が行われるようなことがあれば、THAADを日本に代替配備することを要請するという方法も検討すべきである。

 また、経空脅威対処の基本は、攻撃と防御の適切な組み合わせにある。上記のミサイル防衛能力向上のためには、迎撃ミサイルの取得・配備数を純増させることも不可欠であるが、防御能力だけを向上させることには自ずと限界がある。そこで、相手の攻撃能力をこちらの攻撃によって低減させることで、飛来するミサイルの数を減らし、その相乗効果によって我が方のミサイル防衛による迎撃効率を向上させるという発想を取り入れるべきである。これまで日米間では、自衛隊が「盾」、米軍が「矛」となる役割分担を行ってきたが、今後は相手のミサイル戦力に対する米軍の打撃力を自衛隊が補うため、中型高高度無人機をベースとする動的なターゲティングセンサーを含む総合的な情報・監視・偵察(ISR)能力を強化し、自衛隊自身の策源地攻撃能力を保有することが望ましい。

 この点において、現在防衛省が島嶼防衛用として取得を予定しているJSMやJASSMといったスタンドオフ巡航ミサイルや、海自潜水艦の魚雷発射管からでも発射が可能な最新型のトマホークなどの導入はこれに資するだろう。もっとも、亜音速で飛翔するこれらの巡航ミサイルは、弾道ミサイルの移動発射台のような機動性の高いタイムセンシティブ・ターゲットへの攻撃には必ずしも適さない。しかし、これまで米軍が担ってきた防空レーダーなどの固定目標への攻撃を自衛隊が代替することができれば、その分米軍の航空打撃力を他の移動目標への攻撃に集中させ、より効率的な反復攻撃を行えるようになるはずである。

 こうした実態からもわかるように、日本が構築すべき策源地攻撃能力は、将来的に米軍の打撃力を全面的に置き換えるものではない。自衛隊の策源地攻撃能力は現時点で、それも日米共同の統合的なミサイル防衛体制の下で必要なものであり、米国の防衛コミットメントが信用できないからとか、これまで許されなかった自律性を取り戻すためといった、実効性のある防衛力の向上に繋がらない欲求に基づいて保有すべきものではない。むしろ、そのような態度は、あたかも日米の打撃力がディール可能な要素であるかのような印象を与えかねないばかりか、日米双方の世論の潜在的な不信感を増長させ、結果的に日本をよく理解してくれている日米同盟支持者らの足場を崩してしまうことになる。


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