続いて、ユンケル欧州委員長が、次のように手短に述べた。
「私がホワイトハウスに招かれた時、私は、米国と合意する目的があった。そして、本日、合意は成立した。
私達は、協力すべき多くの分野を明らかにした。産業製品については関税ゼロを目指す。これは、私の主要な目的だった。」「私達は、エネルギーに関する協力を強化することを決めた。EUは、米国から液化天然ガスを輸入するためのターミナルを建設する。これは、他諸国へのメッセージにもなる。
私達は、基準に関する対話の場を設けることで合意した。農業に関しては、EUは米国からより多くの大豆を輸入でき、そうなる。また、私達は、WTOの改革で協力することでも一致した。」
トランプ大統領はローズ・ガーデンを後にする時に、再び言った。「今日は、自由で公正な貿易のために本当に大事な日になった。本当に、いい日だった。」 と。
参考:White House ‘Remarks by President Trump and President Juncker of the European Commission in Joint Press Statements’ July 25, 2018)
トランプ政権誕生以来、米国と欧州諸国との関係(大西洋)には、亀裂が入ったとよく言われた。それは、トランプ大統領が、環境に関するパリ協定からの離脱、核開発に関するイラン合意からの離脱等、オバマ政権が欧州諸国とともに合意して来た多国間の取り決めを、次々と止めてきたからだ。G7首脳会議でもメルケル独首相との馬が合わず、二人が議論する写真(仲介役に安倍総理が映っている)が世界中に広まった。
そんな中、7月11-12日のNATO首脳会議では、どうにか2024年までにGDP比2%の国防費という目標設定で合意ができ、大西洋の分裂危機は回避できたと言われた。
そしてここに来て、7月25日、トランプ大統領とユンケル欧州委員長は「大事な合意」を達成した。世界もこの大西洋の握手に拍手を送り、株価は上昇に反応した。
上記のトランプ大統領の発言を読むと、様々なことが分かる。まず、11月4日の中間選挙が近づくに従い、トランプ大統領の頭の中はその事で溢れ、ますますそれを露わにする。今回の発言の冒頭では、上下両院議員の名前を一人一人呼んだ。また発言の中でも、中西部の農民を意識したり、労働者という言葉が出てきたりした。
もう一つ、上記を読んで理解できるのは、米国とEUの共通利益には、対中国及び対ロシア戦略があることだ。
WTOの改革は、中国を念頭において行うとのトランプ大統領の意図は明らかである。それに合意したユンケル委員長であり、7月16日の北京でのEUと中国との首脳会議でのWTO改革の中身が同床異夢であることが明らかになった。トランプ大統領は、米国からの大豆に中国が報復関税を課すことに対して、代わりに輸出先として欧州を選択し、それに成功した。これで、大豆農家の批判も回避できる。
対ロシアでは、ドイツがロシアからのエネルギー輸入に頼り、ロシアへの依存を深めている。それに対して、米国がロシアの肩代わりをすることでロシアへの依存度を減らし、EU諸国がより団結してロシアに対抗できるようにした。ユンケル欧州委員長が、米国からのLNGの輸入に関して、「これは他の諸国へのメッセージにもなる。」と語っているのは、まさに、この事を念頭に置いているのだろう。
短いホワイトハウスでの共同発言の中にも、国家間の利益関係が読み取れる。トランプ政権が昨年暮れに打ち出した「国家安全保障戦略」の中で、中国とロシアを対立する国として挙げていたが、そのことは、今も変わっていないようだ。
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