4月半ば訪中したブラジル大統領との間で、胡錦濤中国国家主席は軍事からスポーツに及ぶ広範な関係の強化を約束し、今後の両国関係が質量とも深まることを予感させた。
今年の元日ブラジル初の女性大統領としてその座に就いたジルマ・ルセーフ氏は、就任数カ月にしていろいろ象徴的な外交をやってのけた。
バラク・オバマ米大統領に自国を訪問させておき、1カ月後に北京へ自らが訪れた。地球の裏側まで出向いておきながら、往路か復路、東京に立ち寄ることはなかった。日本へは外相に赴かせ、地震の見舞いだけを言わせた。
ブラジルからみた中国の重要性を、正確に反映した外交だったといえる。
ブラジルにとって、中国はいまや最大の貿易相手国だ。中国向け輸出額は200億ドルを超え、2位の米向けを45億ドル超上回る。輸入ではちょうど同じだけの金額が、輸入元として1位と2位の米、中に当てはまる。
いずれにしろ日本は輸出先として約43億ドルの金額で6位、輸入元としては5位に留まる。しかも日本からの輸入額54億ドルは、48億ドルで6位の韓国に猛追されている(数字はどれも2009年)。アジアの大国とは、ブラジルにとって中国以外にない。
12億5000万ドルで
ブラジル製旅客機購入
首脳間で約束したのは大きく6項目。軍事面での合意に始まり、ナノテクノロジー分野の協力、エタノールをつくるなど竹の活用に関する共同研究、水資源分野での協力と、輸出入円滑化のための製品基準・認証の協調、そして6番目が、サッカー・ワールドカップ、オリンピックをそれぞれ2014、16年に控えるブラジルに対し、スポーツ面での協力を深めることだ。
ブラジルに対し、中国は貿易赤字を計上している。けれども今回中国は市場を一段と開き、ブラジルに商機を与えてやることにした。
ブラジル航空機メーカー、エンブラエルがつくる席数99の旅客機を30機、金額にして12億5000万ドルで買うことにしたのがそのひとつ。
豚肉や大豆でも、中国はブラジル産に自国市場を大きく開くこととした。
ちなみにエンブラエルが30機売るというE−190型旅客機は、三菱航空機が開発中のMRJと競合するのみでなく、中国の国産機ARJ21のライバルともなる機種だ。
これの輸入を認めた点、今回中国は就任早々北京を訪れたルセーフ大統領にまずは花をもたせ、ブラジルに譲ってやった形か。エンブラエルが中国で製品を売れるかどうかは近年両国間最大の懸案になっていたといい、ここでの譲歩は政治的に重要だった。
見返りは何か。それを窺わせるのが、軍事面での協力深化を謳った文言である。首脳間で取り交わした「合意」として、一段高い意義を得た文書(他は「覚書」)に出てくるものだ。