「無党派層の取り込み」で揺さぶりをかける中国
しかし、蔡英文が総統に就任して2年経った現在、蔡政権の支持率は下がる一方だ。かといって野党・国民党の支持率が上がっているわけでもない。そんな状況でとりわけ目立つのが「無党派層」に訴える選挙戦略だ。従来の台湾政治イデオロギーは、大きく分ければ最大野党・中国国民党を中心とする親中派(統一を指向)と、与党・民主進歩党に代表される台湾本土派(独立を指向)があり、前者を「藍色」、後者を「緑色」というイメージカラーで呼び分けるが、今回の選挙の大きな鍵を握るのが、「白色」をイメージカラーとする無党派層だ。
例えば、これまで台湾の選挙ポスターのデザインといえば、藍か緑か一見して判るものが殆どだった。しかし今回は、どの陣営の候補者かまったく推測できないもの、マニフェストの書かれていないものが目立ち、浮動票を取り込むには政党色を出すと損だとの心理が透けてみえる。若くてルックスの良い候補者が多いのも印象的だ。
無党派層=白色陣営とは、つまり「自分は台湾人である」(中国人ではない)という自認(台湾アイデンティティ)はあるが、現状維持がもっとも適当であると考える人たちだ。統一したいとは思わないが、ことさら台湾独立を主張して中国やアメリカを刺激したくない ――現台北市長の柯文哲は、そうした無党派層の圧倒的な支持を得ており、次の台北市長選においても再選される可能性が高く、2020年の総統選への出馬も視野にあると言われる。
また、台湾との統一に向けて圧力を強めている中国政府も、国内で力を失った国民党に見切りをつけ、柯文哲を持ち上げ始めた感がある。このことは中国寄りメディアの『中国時報』やテレビ局『TVBS』が柯文哲について好意的な報道をしていることにも表れており、戦局は「藍白 VS 緑」という様相を色濃くしている。これについて台湾政治に詳しい東京外国語大学の小笠原欣幸准教授は、「中国が期待しているのは,柯の当選によって台湾の政党政治がガタガタになり,台湾の民主主義自体が崩れていく局面であろう」と指摘している。