9月14日、台北駐大阪経済文化弁事処の蘇啓誠(そ けいせい)代表が大阪府内で亡くなった。自殺だった。台風21号によって封鎖された関西空港での対応をめぐり、台湾で議論が巻き起こったことに責任を感じての事だったと報道されている。
筆者自身、直接お会いしたことはなかったがフェイスブックで繋がっており、穏やかで実直なお人柄が印象に残っていた。筆者のまわりには蘇氏と親しかった友人も多く、報道のあとに沢山の方がその死を悼み、蘇氏の選択を嘆くのを目の当たりにして、長いあいだ日台を繋いで来られた素晴らしい方を私達は永遠に失ったのだと感じた。
蘇氏を自殺まで追い詰めたのがSNSを発端とするフェイクニュースであることは、『東洋経済オンライン』のこちらの記事に詳しく出ているので拙稿での説明は省くが、フェイクニュースの出所は中国で、台湾社会を混乱させるための工作の一環だったという指摘もある。
蘇啓誠氏の死を無駄にしないためにも、今回の反省をきっかけとして、台湾社会のひずみともいえるフェイクニュースの問題に台湾の方々がきちんと向き合っていくことを願ってやまないが、その一方で日本人はこの事件について、なんら責任はないといえるのだろうか?
「統一地方選」を目前に情報戦が過熱する台湾
ひとりの人を死に追いやるほどフェイクニュースが過熱した原因に、台湾がこの11月に統一地方選を控えていることが挙げられる。この選挙では、上は県市長・県市議員から下は一番小さな自治単位である村長・里長までが選出されるが、この結果が2020年の総統選挙に大きな影響を及ぼすだけに、どの陣営にとっても重みのある選挙であり、メディアやSNSでの情報合戦も日々激しさを増し、フェイクニュースの温床ともなっている。
台湾の選挙では、思いもつかないような予想外の出来事が次々に起こり、それが戦局に大きな影響を与える。2004年の総統選では再選を目指す陳水扁氏が投票日前日に狙撃されたし、2010年には元副総統・連戦の息子で政治家の連勝文が、統一地方選の応援演説中に銃撃をうけた。2016年の総統選前には、韓国の人気アイドルグループTWICEの台湾人メンバー・ツウィ(周子瑜)が韓国のテレビ番組のなかで中華民国国旗を振ったことから「一つの中国」を主張する中国のネットで大炎上し、謝罪に追い込まれた。これが結果的には、台湾の主権を掲げる現総統・蔡英文の勝利に大きな追い風となったと言われている。