「政権攻撃の口実」に利用されている日本
両者それぞれが相手の粗さがしをしては、新聞やテレビ・ネットの各メディア上で大袈裟にスキャンダラスに報道する ――こうした攻防が日夜繰り広げられる台湾社会の在り方と、大阪駐在の台湾外交官だった蘇啓誠氏が自殺にまで追い込まれたことの関係は浅からぬ。なぜなら、緑色陣営を攻撃する口実を与える大きな要素のひとつが「日本」だからだ。日本と台湾のあいだにいったん問題が生じれば、途端に蔡政権は「日本の犬」「皇民」(緑陣営を揶揄する言葉、戦前に台湾で行われた皇民政策から取られた)と罵られ、政争のタネにされてしまう。
例えば、先日の台南の国民党台南支部の敷地内に設置された慰安婦像に対して、蹴るようなポーズをした日本人男性のニュースは台湾で大きな騒ぎを引き起こし、蔡政権は強烈な批判を浴びた。台湾での慰安婦問題は、戦後に日本人の財産を接収し党産とした国民党によって意図的にうやむやにされてきた経緯もあるが、政治イデオロギーに関わらず多くの台湾人が、最終的に日本政府が向き合うべき未解決の問題と考えており、当事者の慰安婦の方々に同情を寄せてもいる。
よって件の日本人男性の行為のために、無党派層ふくめ多くの台湾の人々が侮辱を受けたように感じたのだが、蔡政権の反応が鈍かったため、藍白陣営への戦局利用に上手く利用された形となった。この一人の「日本人」による愚かしい行為が果たして、関西空港をめぐるフェイクニュースに苦しめられていた蘇啓誠氏への更なるストレスとなったかどうかは、今となっては知る由もない。しかし少なくとも、関西空港での対応をめぐって蔡政権が台湾で大きな批判を浴びている最中で起こった醜聞であり、蔡政権叩きをさらに激化させたことは言うまでもない。