旧ソ連では、カザフスタンとベラルーシの2カ国が現在、原発の新設計画を進めているが、両者の建設理由は大きく異なる。カザフスタンは、ロシアと同様にエネルギーの国内需要を原発で補い、資源をより多く輸出して外貨を獲得するためである。資源がないベラルーシはやはりエネルギー安全保障強化というのが第一義的な理由であるが、第二義的に、後述するように、ロシアの原発政策の一端を担って、ロシアに鼓舞されている部分もあると言える。
高温ガス炉にウラン協力
日本とカザフの密接な関係
2009年6月20日に、カザフスタン北東部の旧ソ連・セミパラチンスク核実験場に接する、かつての軍事閉鎖都市クルチャトフに、日本の技術を導入して発電効率の高い原子炉「高温ガス炉」による新型原子力発電所の1号機の建設が計画されていることが明らかになった。茨城県大洗町に研究用の高温ガス炉を持ち、世界最先端の実証試験を行ってきた日本原子力研究開発機構の技術を基礎に、東芝やカザフ国営原子力企業カザトムプロムなどと合弁企業の創設について協議が進んでおり、日本側は半分程度を出資する方向だと報じられている。予定では、1号機の発電能力は5万キロワットで、暖房用の温熱も供給する方針で、2018年に完成、22年頃の稼働を目指している。建設予算は5億ドル以上で、日本の国際協力銀行(JBIC)に資金協力を要請が出された。なお、日本の原発事故後の3月16日、カザフスタンのドゥイセンバイ・トゥルガノフ産業新技術省副大臣が原発計画を続行することを言明している。
カザフスタンは2009年に世界最大のウラン生産国となった。同国のウラン生産に出資する日本企業には東芝、原子燃料工業、関西電力、住友商事などがある。特に東芝は2007年から原発事業でのカザフスタンとの連携を強化し、ウランの安定確保を目指しており、2007年7月には、同社が保有する傘下の米国・ウェスチングハウス株77%のうち10%を、カザフスタンの国営企業カザトムプロムに約4億8630ドルで譲渡した。これにより、カザトムプロムは東芝とウェスチングハウスからウラン加工技術を取得し供給能力を高め、東芝側はウラニウム、すなわち核燃料の確保に成功した。
フクシマ後にロシアと共同で
原発新設を発表したベラルーシ
ベラルーシは以前から、原発建設計画を表明していたが、日本での原発事故の直後である3月15日に、プーチン首相がベラルーシのルカシェンコ大統領らと会談し、両国共同でベラルーシに原発2基を建設することで合意した。建設予定地は、リトアニア国境に近いアストラベツであり、ロシアは90億ユーロという巨額の融資を提示している。本計画について、ロシア側は、ベラルーシは地震地域ではないがロシアの原発は最新世代で安全性が高いと強調している。しかし、隣国リトアニアが安全性の問題に加え、ヴィサギナス原発が冷却用の水を取る湖をベラルーシと共有していること、さらに後述するように、恐らく地域の電力ビジネス問題などを鑑み、ベラルーシの計画に反対している。
ロシアの原発戦略に対抗する
日本サイドの動き~(1)CFS構想
既述のように、ロシアは近年、原発の輸出を外交の重要なカードに据えている。他方、原発にかかわる日本企業も、当面、外国での事業展開しか望めない状況である。そこで原発の市場でロシアと日本、米国の対立関係が目立つようになってきた。