他方、カリーニングラードに建設を予定している原発も、ベラルーシの原発同様に、リトアニアのすぐ近くに建設が予定されており、これが実現すれば、やはりヴィサギナス原発と同じ湖から冷却用の水を確保することになろう。本件で、ロシアはバルト地域へはもちろんドイツへの電力輸出も狙っているという。特に、福島原発事故後、ドイツが脱原発の方向に向かっていることは、ロシアのこの思惑に拍車をかけている。ロシアは、EUに対し、同原発の株を49%まで持つよう提案しており、バルト三国に対してはヴィサギナス計画を放棄してカリーニングラード原発計画に協力するよう呼びかけている。
しかし現状から見る限り、ロシアの野望は達成されそうにない。ベラルーシ原発は2016年、カリーニングラード原発は18年の稼働を表明しているが、現状からすればあまりに非現実的だけでなく、他方でヴィサギナス計画が、近隣諸国が参画する形で具体化してしまっている現在、それが放棄されることは考えにくい。特に、エストニアはカリーニングラード原発への参加を繰り返し否定しており、ラトヴィアも今年の1月にプーチンの誘いを明確に拒絶している(ただし、今度の国会選挙でラトヴィアの新興財閥と在住ロシア人が結託した場合、ヴィサギナス計画から離脱する可能性は否めないとも言われている)。
エネルギーを巡る政治ゲーム
ロシアのこの動きは、サウス・ストリーム計画とそっくりだと指摘されている。サウス・ストリーム計画とは、ロシアがウクライナに対して仕掛けた「ガス紛争」の煽りを受けた欧州諸国が、天然ガスのロシアへの依存度(現在、約4割)を低下させ、かつウクライナを迂回するルートを確保するために進めているナブッコパイプライン計画を阻止するプランだ。サウス・ストリーム計画も、極めて非現実的なプロジェクトであり、ナブッコ計画との両立は考えにくいものだが、ロシアは自国を迂回するガス輸送プロジェクトをつぶすことに躍起なのである。
今回の原発計画もまさにその図式が見てとれる。つまり、ロシアを排除する原発計画を潰し、ロシアが関与する原発で発電した電力を諸外国に輸出することが目的なのである。ロシアは、天然ガス、石油、原発の全ての市場を掌握しようとしている。確かに、天然ガス、石油はそのうち枯渇する。その時に、手遅れにならないように今から原発の市場を握ろうとする考えは、確かにパワーゲームとしては合理的と言えよう。
2回にわたって見てきたように、旧ソ連諸国の原発政策は、欧州とは異なって、日本の原発事故の影響は安全対策などの点を除いてほとんど受けておらず、むしろ強化されており、特にロシアにとっては大きな外交カードになっている。さらに、日本企業も生き残りのためにそのゲームに参入しており、菅首相が述べる「脱原発」とは逆向きの動きが日本国内でも見られることにも注目すべきだろう。これらの問題は世界の原発の趨勢にも関わる問題であり、これからも目が離せない。
*参考資料:旧ソ連の原子力発電所の所在地図(原子力百科事典ATOMICA)
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