6階建ての住宅群とショッピング街、学校、体育館などから成り、居住可能な人口は最大7万人。総工費110億元のうち、復興支援パートナーの山東省が46億元を負担した。無償援助ではあるが、山東省は北川県に工業団地や農場なども建設、いずれは支援以上の実利を上げられるはずだという。
北川県の復興担当副局長、田興恵さんは「共産党の指導の下、十分に住民の希望を聞き取り、専門家が調査し、最終的に中央政府が計画を決めた」と説明した。
チャン族の伝統を活かしたニュータウンは灰色の煉瓦を薄く積み重ねたデザインで統一され、とても美しい。ただ、庶民の生活のにおいがせず、巨大な映画セットのようにも見えた。素晴らしい舞台装置の裏側には「自分に合った仕事が見つからない」「山の一軒家暮らしがなつかしい」「新市街建設のために農地を取り上げられた」など、様々な庶民の不満もくすぶっているであろう。
ただ、震災から3年で被災地を完全に復興し、全住民に永住住宅を与えた功績は大きいといえよう。世界第2位の経済力と「開発独裁」の豪腕によって、急ピッチで成し遂げられた業績であることに間違いない。
壊滅した旧市街はそのまま「地震遺跡」として残し、災害教育のために活用する。がれきの下には行方不明となった住民約6000人の遺体が埋まったままだが、田さんは「あんな危険な場所に街を造ってはいけないと子孫に伝えるため」と敢えて“負のメモリアル”を残す意義を強調した。
改革派の攻勢
今回の訪中で最も驚いたのは、体制内で政治体制改革の必要性を主張する改革派の伸びやかさだった。あるベテラン研究者X氏は匿名を条件として、忌憚のない意見を聞かせてくれた。
「中国が発展を続けるためには、社会矛盾を激化させずに安定を維持する必要がある。だが、現在のような高圧的な手法は短期的には効果があって、長期的には矛盾を爆発させてしまう恐れがある。もっと国民にものを言わせる制度に変えていくべきだ」
X氏は政治体制改革の具体策として①全国人民代表大会(全人代=国会)の機能強化②司法の独立③全人代、司法、メディアの3者で官僚腐敗を監視④言論の自由――などを列挙した。全人代改革については、共産党と切り離して独立性を確保「人民代表の選出も工夫をすべきだ」として、自由選挙の実施を求める考えを示唆した。
しかし、中国指導部は保守化の傾向を強めている。10月に開かれる共産党の第六回中央委員会総会(六中総会)では「社会主義文化の発展」が主要テーマ。これに先立ち、指導部は革命歌を歌って党の「清廉な伝統」を取り戻そうとする運動を展開している。
X氏は革命歌運動について「表面的な効果しかないだろう」。昨年来、政治体制改革の重要性を訴えてきた温家宝首相についても「口先ばかりで、国民の期待に応えていない」とあっさりと切り捨てた。
面目まるつぶれの高速鉄道事故
ここまで原稿を進めたところで、中国高速鉄道の追突事故が発生した。列車制御システムの欠陥が原因で40人が死亡、約190人が負傷する大惨事となった。「開発独裁」の弱点が一挙に露呈した形で、この「中国版新幹線」を国威発揚の象徴としてきた中国指導部の面目はまるつぶれだ。