伝説の巨人、ダン(イ)ダラボッチに関する民話は日本の各地に伝わる。三重県志摩市の大王町波切(だいおうちょうなきり)では、毎年9月の申(さる)の日に、この民話をもとにした伝統行事「わらじ祭り」が執り行われる。祭りの主役となるのが、長さ2.5メートル、幅1.8メートル、重さは80キロほどという、大きなわらじだ。
「言い伝えでは、沖合に浮かぶ大王島(大王崎の沖合の岩礁)に住んでいたダンダラボッチが、毎年9月の半ばごろ、村に現れては悪さをしていたため、困った村人が波切の守り神である韋夜権現(いやごんげん)に助けを求めました。韋夜権現が少女に姿を変えて、浜辺で大きなわらじを作っていたところ、それを見たダンダラボッチが、自分より大男がいると思い、びっくりして逃げたそうです」と、大王町波切在住で観光ボランティアガイドを務める小久保憲一(のりかず)さん。
わらじ祭りの起源は、はっきり分かっていないが、元禄16(1703)年に祭事が再興されたとの記述が残る。祭事は5人の稚児による舞の奉納に引き続き、わらじをダンダラボッチがいたという大王島の方向に引っ張る「わらじ曳き神事」が行われる。さらに若い衆がわらじを担いで須場の浜に運び、そこで海上安全のお祓いの後、“七人婆さん”と呼ばれる年配の女性たちが大わらじを囲んで祝い歌「エレワカ」を歌う。わらじは再び若い衆に担がれて海に入り沖へと運ばれ、「わらじ流し神事」で締めくくられる。本祭(今年は9月14日)が平日に当たる場合、海にわらじを流す神事は週末を待って行われる。
「本祭に申の日が選ばれるのは、“去る”(ダンダラボッチを立ち去らせる)との語呂合わせと考えられます。また、9月の半ばといえば台風が猛威を振るう時期で、ひとつ目の巨人といわれるダンダラボッチそのものが、台風を意味していたともいえるでしょう。漁が盛んだった土地柄だけに、祭りが再興された背景には、村人に時化(しけ)の時期を知らせる目的があったのかもしれません」
波切に伝わるダンダラボッチの民話は、裏を返せば昔の人の自然との共生の知恵だったのだろうか。
わらじ祭り
<開催日>9/14(本祭)と9/17(イベント) *わらじ流し神事は17日
<会場>三重県志摩市・波切神社および須場の浜(近鉄志摩線鵜方駅からバス)
<問>志摩市観光協会 0599(46)0570
http://www.kanko-shima.com/saijiki/waraji/waraji.html
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