WEDGE REPORT

2018年12月12日

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秋元千明 (あきもと・ちあき)

英国王立防衛安全保障研究所日本特別代表

早稲田大学卒業後、NHK入局。30年以上にわたり軍事・安全保障専門の国際記者、解説委員を務める。2012年から現職。著書に『アジア震撼』(NTT出版)、『戦略の地政学──ランドパワーVSシーパワー』(ウェッジ)など多数。

 冷戦後の東アジアも今、似たような状況にある。北朝鮮は核とミサイルの開発を強行し、中国は日本を射程に収める核搭載可能な弾道ミサイルを多く配備している。しかし、これに対応する米国の地域配備の核戦力は陸上にも洋上の艦艇にも配備されていない。

 もし、将来、米国がINFを配備するとすれば、それは間違いなく太平洋西部を射程に収める中国のINFを意識したものになる。中国は15年、太平洋地域のほとんどの米軍基地を射程に収める射程3000~4000キロの弾道ミサイル「東風26号」を配備した。

 しかし、米国がINFの配備で中国に対抗するのは難しいだろう。INFは地上に配備され、通常、移動式の発射台に搭載されて居場所をさとられないよう時折移動する必要がある。面積の広い欧州ではそれも可能だったが、東アジアではそうした空間を確保するのが難しい。

 例えば、グアムは狭く移動できる場所が限られるし、日本の国土に核兵器を配備するのは政治的に極めて困難だ。韓国は北朝鮮の核問題がある上に、あまりに中国に近い。また、フィリピンは現地の政治情勢から、安定した基地の運用が可能かどうか不透明だ。こうしたことから、米国が東アジアに地域型の核戦力を配備するとすれば、米国の報告書が指摘したように、INFではなく、航空機や艦艇、潜水艦に搭載する核巡航ミサイルが最も現実的な選択肢のように思われる。

 しかし、それでも米国の東アジアへの核配備は日本の国内で大きな議論を巻き起こすだろう。もし、米国の第七艦隊が、核ミサイルを搭載した艦艇や潜水艦を運用するとすれば、事実上の母港であり、アジア最大の補給能力を持つ横須賀基地の支援なくして考えにくい。その場合、日本の「核兵器をもたず、つくらず、もちこませず」といういわゆる非核三原則をどうするのか。この議論は、米国が核兵器の海洋配備を中止した1990年代前半までしばしば行われた古い議論だが、日本政府はいつも「米国からの通報がないので、核を搭載していないと解釈する」という理屈で切り抜けていた。

 しかし、今、中国や北朝鮮の核ミサイルの直接の脅威にさらされているのは日本であり、その抑止力として活動する米海軍部隊についてそのような説明をすることは無責任である。米国の核の傘に依存しながら、一方で非核三原則を維持するのは明らかに矛盾しているからだ。非核三原則のうち、「もちこませず」という部分をどのように扱うのかという具体的な議論が必要になるのではないか。

 日本は今、冷戦下のドイツと似た環境にある。米国は東京を守るためにロサンゼルスを犠牲にする覚悟があるのか。この問いかけが、INF再配備の背景に横たわっているのである。

  
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◆Wedge2018年12月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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