2024年12月27日(金)

万葉から吹く風

2011年9月9日

 「女郎花(おみなえし)」は秋の七草の一つで、万葉集には14首登場しています。名前を知らなくても、黄色い粒々の花をみれば「ああ、これか……」と思うことでしょう。

 名前の由来は諸説ありますが、「おんなめし」、つまり「女飯」から来ている線が強そうです。なんでも、白米で作ったおこわが「おとこめし(男飯)」で、対して黄色い粟飯を「女飯」と呼んでいたとか。この「おんなめし」が転じて、「おみなえし」になったというわけです(漢字は当て字)。

      手にとれば袖(そで)さへ匂ふ女郎花
      この白露(しらつゆ)に散らまく惜しも   (詠み人知らず 巻10─2115)

 「手に取ると、袖まで鮮やかに染まりそうなおみなえしが、この白露によって散ってしまうのは惜しいことです」という趣のある歌ですが……ここからは、しばらく科学的な分析に話をすすめたいと思います。

photo: 井上博道

 女郎花の花期は7月下旬~9月。なるほど、この花が散ってゆく頃には気温が下がり、空気中の水分が白く露を結ぶ日が出てきてもよさそうです。万葉集が編まれたのは7世紀後半~8世紀後半頃ですから、朝晩はしっかりと冷え込んで、現在より露を見る機会が多かったにちがいありません。

 二十四節気の「白露(はくろ)」は今の暦で9月8日頃、北日本や本州内陸部を除けば、まだまだ暑い時期にあたります。流れる汗を拭いながら見る女郎花は、とても「秋の訪れを告げている」ようには思えません。実際のところ、近年はいつまでも夏が居座る傾向にあるのです。

 「平年値」という言葉をよく耳にするでしょう。これは、過去30年分のデータの平均値をとったものです。旧・平年値は1971~2000年でしたが、今年の5月からは10年分後ろにスライドさせた、1981~2010年分のデータが使われています。

 この新・平年値を調べてみると、全国的に年平均気温が0.3℃ほど上昇していることが分かりました。中でも顕著なのは、9月の西日本の平均気温です。旧・平年値に比べて、熊本と高松はプラス0.8℃、岡山と下関でプラス0.7℃など、西日本を中心に残暑の厳しい現状がはっきり出ているのです。

 また、高松や徳島を中心に、9月の降水量がめっきり減った点も気になります。夏の太平洋高気圧がいつまでも強く、西日本(特に瀬戸内側)は雨が降りにくい状況に置かれる。それが直接、残暑につながっていると考えられます。

 女郎花と白露の組み合わせ、この風情ある景色を味わえる地域は、年月とともに減ってしまうのではないでしょうか。

◆ 「ひととき」2011年9月号より

 

 

 

    


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