再生可能エネルギーからの発電は風任せ、太陽任せのため、供給が不安定になる。貯めることができない電力は必要な時に必要な量だけ発電し供給することが必要だ。再生可能エネルギーからの電力供給が天候要因で途絶えた場合には、即座にどこかから電気を調達しなければならない。逆に必要以上に発電した場合には、どこかへ電気を送らなければならない。
風力の比率の高いデンマークは全発電量の3分の1もの量を輸出し、ほぼ同じ量を輸入している。風力の発電量が需要量に対していかに大きくずれているかがわかる。発電コストより輸出価格が低いため、その分電力料金が押し上げられている。
太陽光を多く導入したスペインは余った電気をモロッコまで輸出している。欧州の送電線網は、ロシア、中近東、北アフリカまで含めた広い地域でネットワーク状に整備されており、国境を越えた電力の輸出入を大規模かつ簡単に行うことができるのだ。しかしそんな欧州ですら、再生可能エネルギーの導入が増えすぎたために、送電線の増設が検討され始めた。20年までに2000億が必要と見込まれている。
日本の送電線網は、地形の問題もあり欧州のようにネットワーク状にはなっておらず、櫛状になっている。とくに、電力会社間で送電を行うための高圧電線の能力には制限があり、増強も簡単ではない。例えば、中部電力が保有する東清水変電所では、周波数を変換して中部電力と東京電力間で電力の融通を行うが、15年前に工事を開始した275キロボルト(kV)の高圧電線の工事がまだ終了しないために、30万kWの変換設備が13.5万kWしか使えない状況だ。高圧電線の工事には、土地収用の問題がある上に、費用も掛かる。経済産業省の資料では1キロ当たり9億5000万円との数字がある。
このため日本では、電力が不足する、あるいは余った場合の対応が欧州より難しく、再生可能エネルギーの導入量が制限される。導入を増やすには送電線網や蓄電池の追加整備が必要だ。
その費用は、経済産業省の次世代送配電ネットワーク研究会が検討している。菅直人首相の目指す1000万世帯相当の3500万kWの太陽光発電設備を20年に導入する場合の費用は、累積で2兆円から24兆円と想定された(数字に幅があるのは、発電量が多い時に蓄電を行うか、出力抑制を行うかの違いによる)。この費用は需要家の負担になるから、20年段階で1kWh当たり0.46円から5.46円の電力料金の上昇をもたらすという。
さらに、FITの導入により、再生可能エネルギーによる発電の買い取り費用が加わる。仮に太陽光発電のコストが大幅に下がり10年後に3分の1になったとしても、20年時点で年間1兆円近い。1kWh当たりで見ると、約1円の負担となる。
この2つを合計すると、標準家庭では1カ月当たり約500円から2000円の負担増となる。電力料金が家庭より低く設定されている産業界の負担感はより大きくなる。電炉業界など電力消費の負担が大きい企業にとっては海外移転も視野に入るだろう。
政策目的は何か
冷静な整理を
そこまでしても、3500万kWの太陽光発電設備の日本での稼働率は12%であり、その発電量は年間370億kWh、100万kWの火力発電所あるいは原子力発電所5基から6基分の発電量に過ぎない。日本の電力需要の4%程度を賄うだけだ。