立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2018年12月14日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

在米中国人エリート層に激震が走る

 事件の影響が及んだのは、特定業界や企業の外国人だけではない。在米中国人のエリート層にもファーウェイ事件の激震が走る。

 ファーウェイの孟氏を逮捕できるのなら、自分たちも同じようにされる可能性があると彼たちは考える。米国の制裁対象にならない保障はどこにもないからだ。米中貿易戦争はもはや通商や経済の分野にとどまらない。そんな恐怖が彼たちを襲う。世界からエリートたちを温かく迎え入れる米国の笑顔はもう存在しない。冷徹な司法は彼たちの目には、より政治的色彩を帯びてきたようにも映っている。

 ウェブ上の中国語書き込みを見ると、色々ある――。

 在米留学歴をもつ中国人は急用がなければ、しばらくは渡米を控えたいといっている。米国の奨学金をもらった中国人ITエンジニアはiPhoneをやめてファーウェイのスマホに乗り換えたいと憤慨している。エリート層の対米感情の急激な悪化が現れはじめている。

 某AI(人工知能)関連企業の創業者中国人は、10月に米国へ入国する際に審査官から根掘り葉掘り尋問をされたと恐怖をあらわにしている。またシリコンバレーで働く某中国人エンジニアは、米国の出入国にあたっては余計な検査や取り調べを避けるためにも手持ちのノートパソコンからSMS履歴をすべて削除していると告白した。

 これらの中国人エリートたちは、実は米国にも中国にも疑われる可能性があるからだ。

価値観の葛藤、なぜアメリカが豹変したのか?

 ファーウェイ事件で、多くの在米中国人エリート層が少なからずショックを受けている。米国の教育を受け、シリコンバレーで働き、西側の価値観をも受容する人たちである。彼たちはこの事件でアメリカに懐疑を抱き始めた。

 人種のるつぼといわれる米国は何より、多様性に価値を置いてきた。しかし、トランプ大統領の中国に対する露骨な狙い撃ちによって、このような米国の固有価値観に背馳する一面も露呈した。中国人エリートたちが戸惑うのも無理はない。

 ニューヨーク・タイムズ系のコラムニスト袁莉氏がこう述べている。「北京にとっても、中国人エリート階級の対米恐怖感と信頼感の欠落によって恐ろしい結果を生む可能性がある。米中貿易に衝突が存在しながらも、双方の経済が緊密につながっている。現下中国経済の減速も相まって、米中のビジネス関係のいかなる停滞も状況を悪化させ得る」

 その通りだ。米中の対立に直面する中国人エリートの大方は普遍的価値観の側面において総じて米国側に立っている。少なくともそのように見える。彼たちは中国がより開放された自由な市場にすべく自国政府にも働きかけているようにも見える。

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