2024年11月23日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年9月6日

 「日本は、アジア的西方民主制度が最も成熟した国家だが、長期停滞と日本社会の焦燥・不安に直面し、日本の政治イメージは、『やけくそ』というものだ。7年で6回首相が替わったなんて、ギネス世界記録じゃないか」と突き放した上で、「当然、中国式の改革・開放は必要ない。しかし日本社会には中国がこの30年間に経験した『衝撃』が必要だ」とし、「民主は日本で十分に体現しているが、欠陥も含まれている。日本は近代以来、中国人が世界を観察する際の近くて便利な『窓』だ」と強調している。

 こうした論調から、中国の「日本政治像」「野田首相像」が垣間見える。つまり中国の関心事項は次の点と言えるだろう。
(1)野田もまた「短命首相」の仲間入りをするのか。
(2)「日米同盟」重視、「外交より経済」重視は変わらないだろう。
(3)靖国神社参拝に関して強硬路線を貫くのか。
(4)しかし「停滞・日本」にとって「台頭・中国」は不可欠なので、より現実的に対中政策を取るだろう。

中国通「海江田首相」に期待したが……

 中国にとって日本は今も、米国は別格としても、それに次ぐ、またはそれに匹敵する最重要国に位置付けている。「短命首相」が続けば、対日戦略も立てられない。日中間では小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題が終わり、安倍晋三が首相になって以降、首脳の相互訪問を行っているが、今年は日本の首相が公式訪中する番だ。しかし、退陣した菅直人前首相が居座り続けたため、見通しすら立たない。また来秋の共産党大会で党政治局常務委員会入りが確実な王岐山副首相が議長を務める日中閣僚級の「ハイレベル経済対話」も今夏に日本で開催する予定だったが、まだ実現していない。外交日程のめどが立たず、日中関係の停滞を招いている現実は否めない。

 そこに登場したのが、「『A級戦犯』と呼ばれた人たちは戦争犯罪人ではない」」と表明し、「対中強硬派」の前評判が先行した野田新首相だった。中国メディアが期待していたのは、明らかに「海江田万里首相」。8月27日付『環球時報』は、海江田について「日本の新首相は中国語を話せるかもしれない」という見出しを1面トップに掲げ、「中国通」首相の誕生に関心を集中させたのはその表れだ。

「靖国」危機去っても摩擦続く?

 そして野田の就任により中国メディアの関心は、「靖国」に集まった。

 「数年前、小泉純一郎が靖国神社に参拝し、日本は周辺国との外交に重大な困難が出現した際、当時、野党議員の身分だった野田は小泉を明確に支持した」(9月5日『中国新聞週刊』)

 「今後、中日関係の発展の過程で最も憂慮するのは、野田が靖国神社参拝問題でどういう立場を取るかだ」(8月30日付『第一財経日報』)

 しかしメディアの関心をよそに、北京の外交筋の間では、「野田は参拝しない」との見方が大勢を占めた。特に外務省を含めて日本の官僚の間では「野田人気」は高い。それは民主党議員の中で、官僚の意見の耳を傾け、それを総合的に判断して政策を実行する数少ない政治家だからであろう。

 そして野田が、「これまでの内閣の路線を継承し、首相、閣僚の公式参拝はしない。国際政治など総合判断することが必要だ」と、在任中の靖国参拝を明確に否定したのが9月2日の記者会見だった。


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