「泥鰍」(ドジョウ)・野田佳彦首相の誕生に対し、中国は高い関心を持って見ている。筆者は8月12日、北京に赴任したが、中国の記者や研究者らから「福島原発事故の影響はまだあるのか」「野田首相になって日本はどう変わるのか」という質問を受けた。中国メディアでは「『タカ派が日本の首相に』」「歴史問題に強硬」(8月30日付中国紙『環球時報』)という論調が目立つが、北京の外交筋の間では「首相になれば現実的な対中政策を取る」との見方が大半だ。そして中国側には対日工作において二つの切り札があるのだ。
カギは「歴史和解」と「領土棚上げ」
まずは野田新首相に対する新聞の論調を見てみよう。
『21世紀経済報道』(8月30日付)「対中姿勢で野田は強硬派とみられている。彼はたびたび国会に『釣魚島は日本国有の領土』と確認するよう要求し、靖国神社に戦犯はいないと認識している。しかし現在の日本経済は低迷しており、中国の快速発展列車の上にくっつかなければならない。こうした背景下で野田も国家全体の利益を考慮し、これまでの対中姿勢を変えるかもしれない」
『青年参考』(9月1日付)「野田は国内経済問題の解決を優先しなければならないが、また別の観点では、国内の難局に直面し、外交面で中国など隣国を刺激することで、矛盾をそちらにそらすかもしれない」
『新京報』(8月30日付)「野田の選択は、国内事務に極力集中し、国際事務では相対的に冷淡だろう。日本の対中関係が同様に突然変わることはあり得ない。しかし両国関係の構造的問題が未解決の中、野田が強硬に自分の言い分を述べたとしても、中日関係は既に個人の性格や立場を超越した段階になった」
『国際先駆導報』(9月2日付)は「日米、日中関係のバランス上、野田は自分の考えを持っている。つまり『安全保障は外交のすべてではない。経済の側面から日本とBRICS国家の関係は十分に重要だ』ということだ。しかし中国に対しては『有話直話』(話があれば直接言う)が野田の原則だ」
さらに、『環球時報』(31日付)で「日本問題の困難はどこにあるのか。筆者は国家発展の方向に迷い、長期的にずっと探す出すべき位置付けがなくなったことにあると認識している。だから政局は漂流し、外交が失態を続ける」と問題提起したのは中国社会科学院日本研究所の李薇所長。李所長は「日本の難題」として次を挙げる。
「東アジア国家との間にいかに真の『歴史和解』を実現するか、そして日米同盟をいかに位置付けるか」。日中関係の正常かつ健全な発展に向け、相互信頼の基礎が欠如しているとし、「そのカギとなるのは『歴史和解』と『領土問題の棚上げ』」と訴えた。
「中国政治モデル」の優位性
中国メディアは、日本政治の不安定さをこぞって取り上げたが、『環球時報』(8月27日付)の「首相連続交代劇は、嘲笑と熟慮を呼び起こす」という論評は、共産党一党独裁体制が「安定」した中国に学べ、と主張し、「中国政治モデル」の優位性を説いており、興味深い。