しかし、「8週齢という数字上の規制ができたとしても、その間に人間の手で適切な『社会化』がなされなければ意味がない。8週齢に達するまで親子が不適切な生活環境に放置されることもあり得る」と、委員の一人の日本動物福祉協会の調査員で獣医師でもある山口千津子氏は危惧する。また、8週齢に達しているかどうかをどうやって確認するかという問題もあり、数字上の規制に加えてより具体的な内容が求められるであろう。
営業停止がたった1件の理由
8週齢規制以外にも、(1)深夜の生体展示規制や(2)移動販売なども注目を集めている。繁華街で夜遅くまで営業しているペットショップや、イベント会場で動物を販売するのは、動物への健康的な負担やストレスなどを考えてもあまり好ましくない。業界の中でも反対の声があるため、可決の方向にいくのではないかと推測する委員もいる。
長年動物愛護管理法の改正を訴えてきた、特定非営利活動法人・地球生物会議「ALIVE」代表の野上ふさ子氏は、「2005年の法改正で、取扱業者は届出制から登録制となったが、2010年までに営業停止に至ったのはたった1件。動物取扱業者が守るべき基準があいまいで、行政が指導しづらいという現実がある」という。8週齢規制同様、全体的に数値基準を盛り込むなど具体的な法規制が必要と思われる。
このように、遅れる法整備や一部の悪質な業者のために、「ペット後進国」と非難される日本だが、業界の中にも真剣に動物のことを考えている企業は存在する。
小売店が里親探し
千葉県のペットシティ株式会社の運営する14店舗では、「ライフハウス」という里親募集コーナーを設けている。殺処分寸前の収容犬を、社員が引き取り、トリミングからワクチン接種、最低限のしつけをして、ペットとして引き渡せる状態にする。通常の生体販売のすぐ隣に無料で譲渡してもらえる犬がいるとなれば、販売に影響が出そうなものだが、「小売店が店頭で里親募集に取り組むことで、世の中への問題提起になると思います」と営業部営業企画マネージャー・山本郁子(ゆうこ)氏が社としての思いを語ってくれた。2008年10月に取り組みを開始してから、73頭を譲渡している。ペットシティの経営する店舗の生体販売には、ペッツファースト株式会社という別会社がテナントとして入っているが、里親制度の取り組みに理解を示し、エサの提供やマイクロチップの装着などの協力も得ている。
越谷レイクタウン内のペットショップ「ペコス」は、「ライフハウス」設置店第一号だ。この店舗では現在までに46頭の犬の里親が見つかった。現在は3頭の犬が里親を待っている。
里親制度担当の佐藤幸恵(ゆきえ)さんは、この制度に惹かれてペットシティに入社した。「一度辛い思いをしている犬なので、二度と同じ思いはさせたくない」(佐藤さん)ということもあり、犬の幸せを第一に考え、場合によっては譲渡を断ることも珍しくないという。譲渡までには、必ず家族全員が実際に触れてみる、アンケートに答える、講習会を受けるなど多くのハードルがあり、その間に犬との相性などをじっくりと判断する。時間も手間もかかる上に里親制度による収入はゼロだが、今後も続けていくつもりだという。
ペット業界全体の倫理向上のためにも、まずは法改正が実現するかどうか、今後の動きが注目される。
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